Opening (オープニング)
 オマケ (?)

「――どーしましょう…。」
重苦しい溜息と共に、テーブルに突っ伏した。

青葉も茂り…徐々に暑さも増すこの季節――外の爽やかさとは裏腹に、テワクの気分は晴れてくれない…何故なら。
(…一向に見つかりませんわ、私の理想のモデルが…もう見つけなければ、文化祭に間に合わないと言うのに!)
そう――彼女が悩んでいたのは、秋の文化祭で行われるファッションショーで自分の服を着てくれるモデルが
見つからない事に関してだった。
ファッションショーに出展する服飾科の生徒は(各々の制作テーマと制作する数にもよるが)製作期間と学業の関係上…
6月中にはモデルを見つけておきたいのだが…今年はその期日をオーバーした7月に入っても、中々自分の御眼鏡に適うモデルが
全く以て見つからない。まあ幸いな事にモデルの規定に関しては在校生でなくてもOKなので、こうしてモデル探しに
街に出て来たのだが…どうにも"これだ!"と言う人間が見つからないので、休憩も兼ねて入った馴染みのカフェで
デザイン画を広げて溜息を吐くハメになっている。

(――いっその事…メンズに変更して、兄様達にモデルを頼もうかしら…?)

切羽詰った状況に同じ服飾科に居る兄の姿と別の科にいる幼馴染達の姿が脳裏を過ぎり…
"もう今日でダメだったらそうしてしまおう"と思い、ふと窓の外を見てみると――。

(――え?!)

今、自分の目の前を過ぎっていった"色"に目を見開いて、慌てて立ち上がると。
「――ゴメンなさい!!直ぐに戻りますから!!!!」
そう言い残しテワクは店の外に飛び出した。それを聞いた店のマスターは"…若いねぇ"とシミジミと思ったのだった。

店を出たテワクは周辺を見回すが…先程見かけたあの"色"は見当たらなかった。
(――もしかして、幻だったのかしら…?)
落胆と疲労から荒く息を吐き、"店に戻ろう"と顔を上げてみると――再びあの"色"が目に飛び込んできた。
それを見た瞬間――テワクは"このチャンス逃して堪るものですか!!!!"と言わんばかりに、その人物の元へと走った。

「――あ、あの!!」
「――はい、何ですか?」
テワクが声を掛けると、その"色"を持った人は振り返った――よくよく見ればその髪も肌も真っ白で、
顔に変わった傷はあったが…寧ろ魅力的に映ったし、スタイルの方も華奢だが悪くはない。
改めて彼女を見たテワクは"嗚呼、漸く見つけた!!"と歓喜に沸き立った。

「――あの〜…どうかしましたか…?」
余りにもジッと彼女を見つめていた所為か…不審気な顔をされたので、テワクは意を決して目的を言った。

「――私の服のモデルになって頂けませんか!?」
「…えぇぇええええーーーー?!?!!!」

そう言うと――真っ白な少女は目を見開いて叫んだ。

「ご、ゴメンなさい…さっきは叫んでしまって…。」
「――いいえ、私の方こそゴメンなさい…。」
数分後――店に戻った2人はカフェの席で向かい合っていた。真っ白な少女の名は"アレン・ウォーカー"と言い
最近引っ越してきたばかりとの事だった。
「あの…テワクさん。その服のモデルなんですけど、どーしても僕じゃないとダメですか…?」
「…もしかして、何か不都合でも?」
どうにも思い悩んでいる様子のアレンにそう尋ねると――一瞬迷った素振りを見せたが、意を決した様子で左手を
覆っている手袋を外した。
「――あ…」
その手を見て、テワクは何故彼女がこの話に乗り気では無いかを悟った――アレンの手の甲には火傷の痕が残っていた。

「…酷いでしょう?こんな僕よりもっとキレイな人に頼んだ方が――。」
自嘲する様に話すアレンにテワクはキッパリとこう言い放った。
「いいえ――私は貴女が気に入りました、ミス・ウォーカー。その火傷の痕に関しては最大限考慮致しますわ。」
(――ほ、本気なんだ…この人…っていうか僕で本当に大丈夫かなぁ…?)
そのテワクの真剣な言葉に、彼女の本気を悟り――暫しの間悩んだアレンだが…意を決した様子でこう言った。

「えっと…僕でお役に立てるなら、よろしくお願いします。」
「――こちらこそ宜しく御願い致します。」

そのアレンの答えにテワクは笑顔でアレンの手を握ったのだった。

End.



オマケ(の心算がうっかり長くなった…)?

「戻ったか」
「――ただいま戻りました。」
帰宅すると――丁度降りてきていた兄のマダラオと鉢合わせたので、テワクは靴を脱ぎながらそう返す。
そんな妹から感じる気配に、マダラオは"おや?"と思った。
朝、家を出て行った時は明らかに"切羽詰ってます"と言わんばかりのテワクの気配がすっかり穏やかになっている。
その気配に"もしかして"と思いマダラオは尋ねてみた。
「――見つかったのか?」
「ええ、見つかりましたわ。」
その問い掛けに答えた妹の表情に、マダラオは少し安堵する――ここ1週間のテワクの表情と気配は
余りにも切羽詰っていたから…と言うか、ぶっちゃけた話…期日直前のレポートもしくは課題に追われている様にしか見えなかった。
「そうか――そう言えば、隣に誰か越して来たみたいだぞ。」
「え、そうなんですか?」
マダラオがそう言うと、テワクは少し驚いた表情になった。
「ああ――丁度、お前が出て行った後に何台かトラックが来ていたからな。」
「どんな人が来たんでしょうか?」
そんな話をしていると"ピンポーン"とドアチャイムの音が聞こえてきたので、2人は玄関の方へと顔を向けた。
「私が出ますわ、兄様」
「――頼む。」
兄にそう言ってテワクは玄関へと向かった。
「はい。何方様です、か――――。」
「すみません、隣に越してきた者ですけ、ど――――。」
玄関を開けた瞬間…現れた顔にテワクは言葉を失った、そしてそれは訪問者も同じだった。

「――――って、み、ミス・ウォーカー??!?!」
「――――え?!て、テワクさん?!?」
玄関先にあった顔に、お互いが驚いて声を上げてしまったのだった。

「じゃあ、お隣に引越して来たのは…。」
「はは…そうです…。」
玄関先での一悶着(?)経た2人は、"取り敢えず玄関先で話をするのも何なので"とリビングで顔を付き合わせていた。
「――テワク、もしかして彼女が?」
「ええ、兄様。」
そんな会話にアレンが首を傾げて見つめていると、視線の意味を察したテワクが教えてくれた。
「ああ、ゴメンなさい――この人は、兄のマダラオですわ。」
「…マダラオだ――宜しく。」
そう言って下げられた頭にに、アレンは"こちらこそ宜しくお願いします"と頭を下げた。

「そう言えば――ミス・ウォーカー、聞くのを忘れてましたけど…貴女お幾つですの?」
「え、僕ですか?――12月で17ですけど…。」
そう尋ねるテワクにアレンが"きょとん"とした顔で答えると、マダラオがこう言った。
「――じゃあ、妹と同い年だな。」
"今月が誕生日だからな"と言うマダラオに、"はっ"とある事に気付いたテワクはアレンに再び尋ねた。
「あの…ミス・ウォーカー、貴女何処の学校に?」
「えっと、この近くの薔薇学園の普通科に編入する事に――って2人共、どうしたんですか?」
そんなアレンの答えに…少しだけ苦笑するテワクと"成程"と納得したマダラオは顔を見合わせてこう言った。

「「――私達も同じ学校ですわ(だ)。」」

そんな2人の答えに――アレンは"うわぁ凄い偶然ですね!"と笑い、そんなアレンに2人も毒気を抜かれた様な顔をした。

「まぁ――何はともあれ…これから宜しくお願いします、ミス・ウォーカー。」
「――あの…呼び方なんですけど…そんな他人行儀に呼ばなくても良いですよ?」
"折角同じ学校に通うんですから"と言うアレンに、テワクは一瞬"キョトン"とした表情になったが…直ぐに笑顔で
"では私も普通に呼んで頂いて結構ですわ"と言って手を差し出すと、その意味を正確に察したアレンも同じく手を差し出した。

「…では、改めて。宜しくお願いします――アレン。」
「こちらこそ、宜しくお願いします――テワク。」

握手をし微笑み合う2人を、マダラオは穏やかな心地で見つめるのだった。

End.

Title:『Fortune Fate』/Template:『Spica』
執筆中BGM:『WILD RUSH』、『WILD RUSH [Album Mix]』(本編)
『フランちゃんの音楽教室』、『氷結娘』、『ヘミソフィア』(オマケ)