芽生える気持ち、若葉の憂鬱

――私はおかしくなってしまったのか?!

(…暑い。)
ジリジリと日差しが照りつける、夏休み目前のこの日――調理科のハワード・リンクは、幼馴染のテワクに頼まれた本を携えて
被服室へと向かっていた。実は最初に教室に行ってみたのだが…行ったらテワクのクラスメートに『被服室に行ってますー!』と
声を揃って言われてしまったので、こうして被服室に向かっている訳である。
「――テワク、居ますか?」
目的の被服室に到着したリンクは一声掛けるが…当のテワクの姿は見当たらない。"おや?"と首を傾げたリンクだったが
時間を確認してみれば、丁度お昼時――恐らく売店にでも行っているのだろう。
(――…仕方がないな。)
このまま帰ってもう一度来るのも面倒なので、"本を持ってきた"と言伝のメモと一緒に置いておこう…と本を机に置いて
振り向いたその時――。

(――な…?!)

リンクの目に入ったのは――並べられた椅子の上に、真っ白な人間が横たわっている姿だった。

(…眠っている…?)
一瞬"倒れているのか?!"と驚いたリンクだったが…よくよく見てみると、目の前の人間はただ寝ているだけの様で…
思わずリンクは"ホッ"と溜息を吐いたのと同時に"何でこの子の存在に気付かなかった"と思う。
因みに――リンクが何故気付かなかったと言うと、丁度入口からは死角だった――と言うだけの話である。
(――しかし…こんな生徒、ウチの学校に居ただろうか…?)
未だにスヤスヤと眠る人間を見ながらリンクは考える――この学校にこんな目立つ色彩を持つ生徒は先ず見かけない…。
考え込んだリンクだったが"そう言えば…"とある事を思い出した。
(――"普通科に季節外れの転校生が来た"と噂になっていたが…)
"恐らくこの子の事だろう"とリンクは判断した――そりゃ見た事がない訳である。
謎が解けた所で、改めて目の前の真っ白な転校生を見つめる。
――真っ白な髪は日差しでキラキラと飴の様に輝き、肌はミルクを溶かしたかの様に白い。そして唇は薄桃色をしていて
まるで桃の様だった。
"まるでシュガークラフトかケーキの様だ"と思ったのと同時に"美味しそうだ"とも思ってしまって、リンクは愕然とした。
(な、何を考えてるんだ、私は!!)
"初対面の人間に対して思う事じゃない"と脳裏を過ぎった例えを払拭する様に首を振っていると、目の前の転校生の瞼が開き…
現れた銀灰色の瞳とバッチリ目が合ってしまってリンクは固まってしまった。そんなリンクを他所に、転校生は"コトリ"と
首を傾げてこう言った。

「――あの…どなたでしょうか…?」

その声を聞いた瞬間――顔に熱が集まるのを感じたリンクは、その場を離れる事を選択し…猛ダッシュで被服室を後にした。
(――な、何なんだ?!!この動悸は!!一体、どうしてしまったんだ私は…?!?)
今までに感じた事のない胸の高鳴りに混乱しながら、リンクは自身の教室へと駆けて行ったのだった。

(…い、一体何だったの…?)
一方、被服室に取り残された人間――アレンはと言うと…突然走り去っていった人物に驚くしかなかった。

尚――リンクがこれ以降の授業に身が入らなかったのは…言うまでもない。

そして後日――マダラオ・テワク兄妹は"ハワードが壊れた!!"と幼馴染達から相談を受ける事になるのだが…また別の話である。

End.

Title:『Fortune Fate』/Template:『Spica』
執筆中BGM:『亡國覚醒カタルシス』、『ポジティブ・ヴァイブレーション』