「「「――マダラオ、助けて下さい(くれ)!!!」」」
…久方振りの幼馴染達の訪問は、正に『襲撃』と言う名が相応しかった。
終業式も終わり…帰宅したマダラオは着替えながら"これからどうするか"と考えていた。
(――手芸屋に行っても良いんだが…緊急でいる物もないしな…。)
一生懸命考えるマダラオだったが…実際に緊急性のある用事もないので"のんびりと過ごすか"と決めて、1階に降りると――。
――ピポピポ、ピンポーン!!
凄まじいまでのチャイムが鳴り響き、その音に思いっ切り顔を顰めたマダラオは足音荒く玄関へと向かった。
「――一体、誰だ?!」
不機嫌な声色でそう言って、玄関を開けると…ドアの先に居た幼馴染達が冒頭の台詞を吐いてくれたのだった。
「――一体全体、どうしたんだ…お前達は…?」
あのまま幼馴染達を放置する訳にもいかず、取り敢えずリビングに通したマダラオがそう尋ねると…幼馴染達は
揃って顔を見合わせた。そんな幼馴染達の様子に"そんなに言いづらい事なのか?"と思ったマダラオだったが…
やがて…髪をサイドテールにしている幼馴染―名をトクサと言う―が意を決した様子でこう言った。
「あのですね、マダラオ…今から私達が言う事を、落ち着いて聞いて下さいね…。」
「――?あ、ああ…。」
そんなトクサの様子に…マダラオは"本当に何があったんだ?"と身構えた。
「「「…ハワードが壊れたんです(だ)!!」」」
「――…はぁ?!?!」
予想外とも言える幼馴染達のその言葉に、マダラオは一瞬固まった後…大声でそう叫んだ。
「――『壊れた』とは…どういう事だ?」
「――一昨日な…久方振りに、ルベリエおじさんの店に行ったんだよ…この面々で。」
マダラオの問い掛けに…落ち込んだ様子でそう言うのは、この幼馴染の中で小柄なキレドリである。
「そしたらな…ハワードの奴、有り得ないドジをやらかしてたんだ…」
そのキレドリに続く様に言うのは、この面々で最も大柄なゴウシである――尚、彼は見た目に違わず相撲好きである。
「――因みに聞くが…何をやらかしたんだ、アイツは…。」
そう言いつつ、マダラオは此処には居ないもう1人の幼馴染を思い浮かべる――少なくともアレは何事も効率良く行う人間なのは
自分が1番よく知ってるし…第一"壊れた"と言うのも些か信じられない事だった。
「…えっとですね――まずはカップに注いでいたコーヒーを溢れさせ…」
「…続けて、客がオーダーした品を間違え…――。」
「――終いにゃ、何もない所ですっ転んで、コーヒーをぶちまけてたぞ…。」
次々と聞かされる幼馴染のその"奇行"に、マダラオは自分の顔が引き攣るのを感じた――柄にもなく"おいおいマジかよ…"と
思ってしまった。
「――そんなもんなんで、ルベリエおじさんから私達に"どうにかできるか"とヘルプが入ったんですが…」
"私達だけじゃどーしようもなくて"と話すトクサに、キレドリとゴウシも同調して頷く。
「…成程な。」
そんな幼馴染達にマダラオは乾いた笑いを発しながら、そう言って天を仰いだ。
((((――本当に何があったんだ(ですか、だよ)…?))))
"壊れたリンクの姿"が脳裏に過ぎってしまい…図らずも心の声が唱和してしまった4人だった。
男連中が頭を抱えて唸り始めた頃、何時の間にか帰宅していたテワクが大荷物を持ってリビングに入ってきた
――どうやら布問屋に行っていたらしい。
「おかえり」
「兄様、ただいま――って、皆どうしたんですの?」
リビングに入ってきたテワクにマダラオが気付いて声を掛けると、テワクは何やら異様な雰囲気になっている兄達に首を傾げた。
「…いや、何か知らんが――ハワードが壊れたらしい…。」
「――えぇ?!!」
凹んでいるトクサ達に代わってマダラオがそう言うと、先刻のマダラオ同様に叫んだテワクだった。
事の次第を聞いたテワクも、思わず"マジですか…"と心の中で呟いていた。
「所で――リン兄様がおかしくなったのって何時からですか?」
その初歩とも言えるテワクの問い掛けに答えたのはキレドリだった。
「ルベリエおじさん曰く――"3日前からおかしい"って言ってたから、今日から数えると5日前だな。」
キレドリの発した"5日前"と言うキーワードにテワクは"ん?"と考え込む――確かその日は…。
「――あ。」
「――もしかして、心当たりがあるのか?」
"ポン"と手を打ったテワクに、ゴウシがそう言うとテワクはこう続けた。
「確か…その日は――私が頼んだ本を持ってリン兄様が被服室に来た日ですわ。」
"丁度、売店に行ってた関係で会えませんでしたが"と言うテワクの言葉を男連中は真剣に聞く――
"もしかしたら、手掛かりがあるかもしれない"と思ったからだ。
「ただ…。」
「"ただ…"――何だよ?」
そこまで言って微妙な顔になったテワクにキレドリが先を促す。
「その時、アレンが被服室に居たんですが――そのアレンが"三つ編みの人が自分と目が合った瞬間に猛ダッシュで走り去った"って…。」
「――は、走り去った?!」
テワクの言葉にマダラオは目を瞠る、他の3人は"アレン"と言う言葉に首を傾げたが…やがて"ポン"とトクサが手を打った。
「――ああ、"普通科の季節外れの転校生"ですか。」
思い当たったトクサがそう言えば、テワクは"その通り"と頷いた。
「もしかして、ショーの関係か?」
「――ええ、寸法の関係で被服室に来て貰っていたんですの。」
「ん?ひょっとしたら――」
マダラオの疑問にテワクがそう答えた後、何か"ピン"と来たのかトクサがそう前置きをしてこう言った。
「――もしかしての話ですけど…ハワード、その転校生に"一目惚れ"でもしたんじゃないんですかね…?」
「「「「……それだ(ですわ)――――!!!」」」」
トクサの言葉に、他の面々は"ハッ"とした様に叫んだ。
「――そう考えれば全てに納得がいく!!」
「ええ――そうですわ!」
「…確かに、ハワードの場合――初恋も未だだろうしなぁ…。」
「――有り得そうで怖えぇ…。」
「…堅物が故の悲劇ですねぇ…」
「「「「――何せ"お菓子作りが恋人"って素で言いそうな奴だしな(ですからねぇ、人ですもの)…。」」」」
次々と幼馴染を扱き下ろす台詞が飛び出すが…彼らは彼らなりに幼馴染を心配しているのである。
そんなこんなで4人は"一応…原因が判明したのだからよかった"と溜息を吐いたのだった。
一方、その頃――当のリンクはと言うと…。
「―――はぁ…」
「「「…オーナー、どうすりゃ良いんですかねぇ…?」」」
「…どうしようもないでしょうよ、原因が解らないんですから…。」
「「「――そんなぁああああああ〜!!!」」」
と――ドジをやらかしてはいなかったものの…未だに店の面々に混乱をウイルスの様に振りまいていた。
End.
Title:『Fortune
Fate』/Template:『Spica』
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