――溜息ばかりが零れるのです…。
「はぁ…。」
夏休みのこの日――リンクは朝から店に入っていたが、溜息の吐き通しだった。
どうにも"あの日"以来調子が出ない、大好きだった菓子作りにも身が入らない――と言うか白いクリームを目にすると
あの真っ白な子が脳裏を過ぎってしまって、それどころでは無くなってしまうのだ。
(…本当に私はどうしたんだろうか…?)
内心呟くリンク――ここまで揃えれば普通の人なら、どういう状況なのか分かりそうなモノだが…そこは幼馴染に"堅物"と言われた
リンクである…未だに自分の心をざわつかせる"それ"が何なのか全然分かっちゃいなかった。
リン、リン――。
来店を知らせるドアベルが聞こえ、リンクは営業用の顔で入口の方を向いた。
「――いらっしゃい…ま、せ…。」
不意にリンクの言葉が途切れた――何故なら…そこに居たのはあの真っ白な子だったから。
「――あの〜、すみません。」
「は、はい、何でしょうか?!」
恐る恐る声を掛けられて、驚きで声が引っ繰り返ってしまったリンクだったが…目の前の白い彼女
(よく見たらちゃんとスカートを履いていた)は、そんなリンクを気にする事なく彼女はこう言った。
「…失礼ですが、ルベリエさんは居ますか?」
「――お、オーナーですか…居ますが、何か御用ですか?」
彼女のその言葉に"どうやら店主である養父に用件があるらしい"と判断したリンクが尋ねると、彼女はこう言った。
「――"アレン・ウォーカー"と言えば分かりますから。」
そう言う彼女に、リンクは"少し待っていて下さい"と言って店の奥へと引っ込んだ。
(…そうか、"ウォーカー"と…言うのか、彼女は…)
心の中で彼女の名前を反芻しながら、リンクは店の厨房に居る店主に声を掛けた。
「――オーナー、お客様です。」
「ん、お客?誰かね。」
そんなリンクの声に、追加のケーキを作っていた店主のルベリエは振り向くとそう尋ねる。
「…"アレン・ウォーカー"と言ってましたが――。」
「――あぁ、直ぐに行きます。」
それを聞いたルベリエは、慌ててカウンターの方へと向かった。そんなルベリエの様子に"本当に知り合いだったのか…"と
思うと同時に、胸の奥で"モヤモヤ"としたモノが湧き上がるのを感じた。
(――ん?何だ、この感じは…?)
その"モヤモヤ"に顔を顰めたリンクだったが、"ぼーん、手伝ってくれー!"と呼ばれ…湧き上がった感情を振り払う様に
厨房の奥へと向かった。
暫くして…厨房に戻ってきたルベリエは、リンクにこう言った。
「――明後日から、バイトが入りますので。」
「え――もしかして…あのさっきの彼女、ですか?!」
驚いた顔をするリンクに、ルベリエは"おや?"と思いながらもこう続けた。
「――ええ。友人に"夏休みの間だけでも使ってやってくれ"と頼まれてましてね。」
それを聞いたリンクはすっかり固まってしまい…不審に思ったルベリエは声を掛けた。
「――ハワード、一体どうしたんですか?」
「い、いえ!な、何でもありません!!」
まるで追求を逃れる様に"レジの方に行ってきます!!"と言って厨房から飛び出したリンクに、ルベリエは首を傾げる…
どうにも今日の来客を意識しすぎている――あれではまるで恋する青年の様ではないか。
(…ああ、そういう事ですか。)
ここ数日…リンクを悩ませている"原因"に思い当たったルベリエは"ふむ"と納得した――どうやら"菓子一筋"の養い子に漸く
年頃の青年らしい話題が訪れた様である。
数時間後――訪れた面々により、ルベリエは自分の考えが間違っていなかった事を悟る。
そして――リンクが"自分はアレンに恋をしている"と言う事に気付いたのはその翌日だった。
End.
Title:『Fortune Fate』/Template:『Spica』
執筆中BGM:『ブルー・シャトウ』、『恋のフーガ(小柳ゆきVer.)』、『ナオミの夢』