不純すぎた妄想に自己嫌悪

"ふわふわ"――とキミの声が聞こえるのです。

「―――――ッ!!!?」
"ガバッ"と跳ね起きたリンクは、思わず辺りを見回す――そこは何時もと変わらぬ自分の部屋だった。
(ゆ、夢――だったのか…)
見慣れた光景に思わず"ホッ"と息を吐き出すリンクだが…それと同時に自己嫌悪も襲ってくる――
だってさっきまで自分が見ていた夢には…。
「――どうして、ウォーカーが出てくるんですか…。」
そう――つい先日に出会い、そして昨日再会した"アレン・ウォーカー"が夢に出てきたのだ――しかも、どう言う訳か…
夢の中で自分と彼女はキスをしていたのだ。
余りにも生々しい…もとい、後ろめたい夢の内容にリンクは頭を抱える。

"――だいすきです…。"

(――うぅ…。)
フラッシュバックしてしまったアレンの姿と声に、リンクは内心で呻く――が"ゾクッ"と背筋が戦慄いたのを感じ、ふと
目線を自身の方へと向けると――。
(――な、何でっ…?!?!)
今度こそ本気で死にたくなった、微かにではあるが自身が反応していたのである――そりゃ年頃の青年が"そう言う夢"を
反芻したのなら当然の反応であるのだが…滅多にそう言う経験の無いリンクは戸惑った。
(…情けないにも程があるだろう、私…!!)
そうこうしている内にどうしようもない程に熱が上がってしまい、物凄く泣きたい気分でリンクは熱を冷ます事にしたのだった。

数十分後…朝食の席で――。

「――ハワード、大丈夫かね?」
「ぇ…?」

半分魂が抜けた様なリンクに、ルベリエは声を掛けるが…当のリンクは胡乱げな声を返すだけだ。
そんなリンクに"今日は久し振りに出掛けたらどうです"とルベリエが言うと、漸く正気に戻ったリンクが何事か言うが
それを"偶には気分転換も必要でしょう"とルベリエが説き伏せると、"はぁ…分かりました"と答えたリンクは
やっと食事に手を付け始めた。
(――店が定休日でよかった…)
"あれでは今日は使い物にならない"と…心底からそう思うルベリエだった――これでも心配しているのである。

数時間後――手土産片手にリンクは、幼馴染のマダラオ・テワク兄妹の家の前に居た――実の所"気分転換"と言われても全然行く所が
思い付かなかったが…丁度、テワクに貸している本の存在を思い出したのもあり、こうして訪ねたのだ。

――ピンポーン。

『――はい?』
「――私だ、マダラオ。」
『分かった、少し待て。』

チャイムを鳴らし、聞こえて来た声に短くそう言えば――暫しの間を置いて玄関が開いて、マダラオが出てきたので手土産を渡すと
"入れ"と言われたので、"お邪魔します"と言って家の中に入った。
「――そう言えば、何の用だ?」
「ああ――テワクに貸している本を取りに来たのだが…」
"居ないのか?"と言うリンクに、マダラオは冷蔵庫に手土産を入れながらこう返した。
「――テワクなら…隣人と水遊び中だ。」
「"隣人"って…誰か越してきたのか?」
マダラオの言葉にリンクは"おや?"と言う顔をする――そんなリンクを見て"隣家の住人"を思い出したマダラオはこう言った。
「――行ってみるか?」
そんなマダラオの言葉にリンクは微かに瞠目するが頷く――そしてこの先の展開を思い、小さく笑ってしまうマダラオだった。

隣家の庭に足を踏み入れると、水の音と共に燥ぐ声が聞こえてくる。
「テーワークー。」
「あ――兄様、リン兄様も。」
兄の呼ぶ声に気付いて水浴び中だったテワクが駆け寄って行けば、2人が揃って"ずぶ濡れだな"と言う。
すると"水遊びしてたんですから、当たり前ですわ"とテワクは笑った。
「――所で何の用ですか?」
「ああ――ハワードが"貸した本を取りに来た"との事なんだが…」
その言葉でリンクが居る理由を悟ったテワクは"ちょっと待ってて下さい"と言って、同じ様に庭で水浴びをしていた
隣人に声を掛けた。

「――アレーン!私、ちょっと家に戻ります!!」
「はーい、分かりました!!」

(――はいぃい?!!)
テワクの口から出た名前と聞こえて来た声に、リンクは驚いて声が聞こえた方向に顔を向けると…そこには何と
アレン・ウォーカーの姿があった。
「あれ、マダラオ――どうしたんですか?」
「ああ、ちょっとテワクに客が来たからな。」
首を傾げるアレンにマダラオがそう言うと"そうですか"とアレンは納得した――そしてマダラオの隣に居たリンクを見て声を上げた。
「――あ、こないだの!!」
「――…先日は大変申し訳ありませんでした…。」
アレンの言葉にリンクは先日の"醜態"を思いだし…気不味い表情と声で謝罪をすると――。
「僕も思い出したの昨日お店から帰った後ですから、お相子ですよ。」
"気にしないでいいですよ"と言う顔でアレンに、リンクの心臓が"トクン"と音を立てる――が親しげに話すマダラオとアレンに
今度は胸の奥が"チクン"と痛みを感じて思わず2人から顔を背けてしまう。
そんなリンクの心情を知ってか知らずか…"クルッ"とアレンの顔がこっちに向いたので、再びリンクの心臓は音を立てた。

「それじゃあ、改めて――アレン・ウォーカーです。」
「――ハワード・リンク、です…。」
"ニコ"と笑顔を浮かべて自己紹介をするアレンに、リンクも短く名乗る――その脳裏に以前テワクと何気なく話していた時に彼女が言った
"ある言葉"が過ぎった。

"…特定の人に胸がドキドキして、些細な事でキューとしたらそれは『恋』ですわ。"

(――そうか…私はウォーカーに"恋"をしていたのか…。)

こうして漸くリンクは"自分はアレンに恋をしている"と自覚したのだった。

そして…借りていた本を携えて戻ってきたテワクと、その場に留まって居たマダラオの間では――。

(――兄様。)
(――何だテワク。)
(…ワザとリン兄様をココに連れて来ましたね。)
(…当たり前だ、彼奴に自覚させるのにはこれ位はせんと)
(…確かにそうですわね、リン兄様の場合は。)
(――だろう?)

…そんな兄妹の内緒話にリンクが気付く事は終ぞ無かった。

End.

Title:『Fortune Fate』/Template:『Spica』
執筆中BGM:『春一番(中国語Ver.&エレクトーン)』、『にんじゃりばんばん』