「――今日は浴衣の人が多いですね。」
見送った客と同じ浴衣姿のアレンが呟いた。
「――今日は花火大会ですから。」
「あ、だから"今日は浴衣で来て下さい"って言ってたんですね」
そんな呟きにリンクが答えるとアレンは"納得"といった表情をする――因みにそう言うリンクも浴衣姿である。
この店――一応制服はあるのだが、オーナーであるルベリエが"季節感を出す為"と言う名目でイベント時に服装を指定する事があるのだ。
そう言う訳で――ホール担当のアレンは元より、基本厨房に居るリンクもこの日ばかりは浴衣姿で店に出ているのだ。
尚――厨房組(ルベリエ達)は普段通りの服装(コックコート)である。
「…私は普段通りで良かったのですが。」
「えー、こう言うのも良いじゃないですか。」
"この姿じゃ厨房に入れない…"と不満を言うリンクに対して、アレンはこの状況が新鮮に感じる様で"ニコニコ"と笑って言う。
そんなアレンの笑顔にリンクの心臓が"トクン"と音を立てたが…仕事中である事を思い出し、雑念を振り払う様に頭を振る。
「どうしたんですか、リンク?」
「何でもありません――ウォーカー、レジをお願い出来ますか?」
「あ、はい。」
そう言ってそそくさとホールに向かうリンクにアレンは首を傾げたが…レジの方に客が居たので慌てて其方に向かった。
そんな2人の遣り取りを見ていた厨房組は――。
「…青春ですねぇ。」
「「「――そうっすね~。」」」
…のほほんとそう呟くのだった。
暫くして、レジとホールの客も居なくなった頃…外から"パーン"と音が聞こえたので窓を覗いて見ると――。
「あ!花火だ!!」
「――始まりましたか。」
窓から見える花火に"綺麗ですね!"とはしゃぐアレンをリンクは"ジッ"と見つめる。
(…かわいいな。)
心底からそう思いリンクは感嘆の息を吐く――実際問題、今日店に来たアレンを見て息が止まりかけたのだ。
普段から可愛いのに、浴衣姿と言うだけで清楚さが増し美人となった――そんなもんだから、夕方辺りにはアレンに声を掛ける輩が
非常に多かった(無論全力で妨害した)。
(――あ、思い出しただけで腹が立ってきた…)
そんな事を思い出してしまい、リンクの眉間に皺が寄ってしまう――が…タイミングを図った様にアレンが振り向いたので
咄嗟に笑顔を作るとアレンも"ニコ"と笑ったので、リンクの心が少し安らぐ。
…幸いにも今は客も居ない閉店前の閑散時。閉店作業開始までの僅かな"休憩時間"を甘受する事にした。
「…すみません、送って貰っちゃって。」
「――いえ、気にしないで下さい。」
暗い夜道をリンクとアレンは揃って歩いていた――実は…花火が終わる頃。閉店作業が終わり、アレンが帰宅しようとした所…
ルベリエがリンクに"夜道は危ないからウォーカーを送って行きなさい"と言った為、こうして2人で歩いているのである。
「――でも、家からお店までそんなに離れてないから大丈夫だと思うんですけど…。」
そんな事を言うアレンに、リンクは頭を抱えた。
(…ウォーカー、君はもう少し警戒感を持つべきです…)
無防備なアレンに心底からリンクは思う――近所だからと言って油断してはいけない。何処に"オオカミ"が潜んでいるか分からないし…
もし"食べ"られたりでもしたら…。
(――いや、それだけは阻止しないと…!!)
うっかり"最悪の事態"が思い浮かんでしまい悶々とするリンク。そんなリンクをアレンは"ジッ"と見つめる。
(――どうしたんだろ…。)
考え込んでいる様子のリンクにアレンは内心で首を傾げる――アレンから見てリンクは悪い人間ではないのだが…こうして考え込む事が
多い。"進路の事で悩んでいる"と言った感じでは無いし、本人も言わないので聞かないでいる。
(…受験勉強、大変なのかな?)
"うん、きっとそうだ!"――と非常に的外れな納得してしまったアレンだった…。
そんなこんなしてる内に――アレンの家が見えてきた。
「――今日はありがとうございました。」
「い、いえ…。」
"それじゃあ、おやすみなさい"と言って家に入ろうとしたアレンの手をリンクは咄嗟に掴んでしまい…"しまった"と思ったが
意を決して切り出した。
「あ…あの、ウォーカー。」
「?何ですか?」
「――今度の休みなんですが…隣町で縁日があるんです…その――。」
「はい。」
そこまで言って言葉に詰まってしまったリンクだったが…手を掴まれた事に文句を言わずこちらの出方を待ってくれているアレンに
色々と振り絞ってこう言った。
「――い、一緒に…行きませんか…?」
「――いいですよ。」
「い、いいんですか?」
暫しの間を置いて返ってきたアレンの答えに、リンクは間の抜けた声でそう言う――まさか了承を得られるとは思わなかった。
すると…アレンが不思議そうな顔でこちらを見ていたのに気が付いたリンクが"何ですか?"と尋ねれば…"顔赤いですよ"と言われ、
焦ってしまったのはお約束である。
「――じゃあ、おやすみなさい。」
「お、おやすみなさい」
そして…今度こそ家の中に入っていくアレンを見送ったリンクは、暫くの間その場に佇んでいたが…やがて自らも家路についた。
後日――2人は仲良く縁日を楽しんだらしい。
End.
Title:『Fortune
Fate』/Template:『Spica』
執筆中BGM:『切情!佰火繚乱(Off Vocal)』、『VS.デューオ』、『WHAT'S WRONG?』