恋が目覚めるクレピュスキュール


 オマケ

「うわーん!これ、無理ですって!!」
目の前の光景に泣きそうになった。

「何言ってるんですの、ココまで来たら諦めて腹を括りなさい!!」
"シャー"と効果音が聞こえそうな程叫ぶテワクに、負けじとアレンも"そんな事言ったって〜!"と叫ぶ――何故なら…。
「ココまでお客さんが来るなんて聞いてないですー!!」
そう――アレンが叫んだのは、予想外とも言える観客の多さだった。

――この薔薇学園の文化祭は3日間行われるが、その目玉とも言えるのが…最終日に行われるこのファッションショーである。
学生ながらにかなり手の込んだ作品を作るので、毎年かなりの観客が訪れるのだ――因みに…今年のテーマは『ドレス』と付く物なら何でもOKとの事。

暫く押し問答を繰り返した2人だったが、テワクは1つ息を吐いてこう言った。
「――私達、頑張ったのに…。」
「――う゛…。」
そう言われてしまうとアレンは何も言えなくなってしまう――テワク達が"徹夜"をしてまでこの衣装を仕上げたのを知っている上、
"自分の事情"を考慮してくれているのも知っているので強く出れないのだ…暫し自分の中で葛藤していたアレンだが…。
「…頑張ります…」
何とか覚悟が決まったアレンがそう言うと、テワクは"ニコ"と笑顔を浮かべて衣装の準備をしだした。
「――…頑張れ、ウォーカー」
「うぅ…頑張ります…。」
そんなテワクを見ながら、マダラオはアレンの肩を叩き…そしてアレンは肩を落としながらそう呟いたのだった。

そして数十分後――。

「――わぁ…」
「――…これは…」
メイクと衣装の着付けが終わったアレンを見て、2人は感嘆の溜息を吐いた――シンプルな作りの純白のドレスは細身のアレンにとても似合っており…襟からデコルテに
掛けてはレースをふんだんに使ったが…長袖にした事と手袋のお陰で左腕の火傷の痕もカバー出来た。そして顔は特徴的な傷を化粧とヴェールで上手く隠し…化粧自体も
ミルク色の肌が引き立つ様に薄らとしかしていないが、清楚な色気が滲み出ていた――そう今回テワクが作ったのは、純白のウエディングドレスだった
(ドレスはサイズ調整等に時間が掛かる為早めにモデルを探していた)。
「――あの…やっぱり変ですかね…。」
「「――そんな事ない!!」」
自信無さ気に言うアレンに、2人が声を揃えて言えば――アレンは吃驚した顔をしたが、直ぐに"ニコ"と笑ってくれた。
その笑顔を見て何処と無く微妙な顔をしたテワクにマダラオは首を傾げる――何時もならアレンの笑顔を見たら釣られて笑顔になると言うのに。
「どうした、テワク?」
「――何か、リン兄様に"あげる"のが物凄く勿体無い気が…。」
気になって尋ねてみると――"複雑"と言わんばかりの顔で発せられた妹の言葉に、何となく気持ちを察したマダラオは苦笑するしかなかった。

「――くしゅっ」
一方その頃――当のリンクはと言うと…客席に座ってくしゃみをしていた。
(…誰かが噂でもしているのか?)
漠然と思いながらリンクはプログラムを目を通す――こう言うイベント事には出来るだけ幼馴染の出し物には顔を出す様にしているが…今回は"絶対に顔出して下さいね!"と
テワクに強く言われたのでこうして早めに来たのだ――が、こう言う時の自分の行動を知っている筈のテワクの様子に首を傾げているのも事実である。
(――今回は一体誰をモデルにしたんだ…?)
プログラムを見ながらそう思った所で…ショーの開幕を告げるアナウンスが流れたので、リンクは舞台の方へと目を向けた。

「――う〜…緊張する…。」
「…大丈夫ですの?」
舞台裏で出番を待ちながら唸るアレンにテワクが声を掛けると…聊か青褪めた顔で振り返ったので、今度はマダラオが声を掛ける。
「――本当に大丈夫か、ウォーカー?」
「…多分…。」
"微妙"と言わんばかりのアレンの答えに、マダラオの表情も若干だが曇る――そして…そんなアレンを見かねてテワクは声を掛けた。
「ねぇ、アレン。」
「何ですか?」
呼び掛けに振り向いたアレンに、テワクは真剣な声色でこう言った。

「――貴女は私達が見てきた人で1番可愛いわ、だから…自信を持って胸を張って欲しいの。」

そんなテワクの言葉に"キョトン"と目を丸くしたアレンだったが…心からのその言葉にアレンが"ふんわり"と笑った所で――"テワクー、そろそろだよー!!"と呼ぶ
服飾科の生徒の声が聞こえて来た。
「あ、出番ですわ」
「そうだな、そろそろ移動しよう。」
「あ、はい。」
その声に3人は急いで移動し、出番に備える――そして愈々出番が訪れた。
「――いってきます。」
「「いってらっしゃい。」」
"一つ息を吐き…そう言ってアレンが一歩踏み出せば、2人は声を揃えてそう言いアレンを見送った。

(――な?!うぉ、ウォーカー?!?!)
舞台に現れたモデルに目を見開いた――だって其処に居たのは自分の顔見知りで、その上自分の好きな人だったらそりゃ驚くだろう。
(…ひっかけたな、テワク!!)
何故テワクが"絶対に顔を出して"と言ったのかリンクは悟った――明らかに確信犯…と言うか自分がアレンに"好意"を抱いているのがバレてるのだろう、確実に。
色々と思う所はあるが、それはさて置き――リンクは舞台上のアレンを見つめる。シンプルなドレスは非常に似合っていたが、ヴェール下の表情は何時に無く硬い様に
見える…恐らく緊張しているのだろう。
そう思っていると舞台上のアレンと"バチ"と目が合う――すると"ほわん"と花が開く様にアレンが微笑み…それを見たリンクは"カァッ"と顔が赤くなるのを感じた。
(そ、その笑顔は…は、反則です…)
"ドキドキ"と高鳴る心臓と顔の熱を持て余しながら、内心で呟くリンクだった。

そんなこんなで、色々あったが――盛大な拍手に包まれながら、今年のファッションショーは幕を下ろしたのだった。

それから数十分後――会場を後にしたリンクはテワク達を探していた――が、どう言う訳か見つからない…例年なら直ぐに見つかると言うのに。
(い、一体何処に…。)
彼方此方歩き回ったので流石にヘトヘトになりかけたリンクだったが、突然携帯の着信音が鳴り響いたので見てみると…テワクからのメールだった。
"何だろう?"と思い、メールを開けば――。

"被服室"

余りにも簡素な文に首を傾げたが、"兎に角行けば分かるか"とリンクは被服室へと足を向ける事にした。

数分後…被服室へと到着したリンクが"ガラ"と戸を開けると人の気配を感じたので"誰ですか?"と声を掛けてみる。

「あ、リンク。」
「ウォーカー…ッ?!」

その声を聞いたリンクは驚いた声を上げた。何と其処に居たのはアレンで…しかも――。

「な、な…なんで、そんな格好してるんですか…?!」
「へ?」

叫ぶリンクにアレンは目をパチクリさせる――そりゃそうだ、今のアレンの格好はと言うと…先程の純白のドレスとは打って変わって…真っ黒なホルターネックのドレスに
二の腕まで覆うファーの付いたサテン地の長手袋、その上…際どい所まで入ったスリットから覗く足はこれまた黒のガーターストッキングで包まれていて…
化粧の方も目元を強調したキツめの化粧になっており…どう見ても色気駄々漏れの美少女が其処に居た。

「――えっとですね…テワクとマダラオが"これ着て被服室に行って下さい"って…。」
(マーダーラーオー、テーワークー!!!!)
そう言うアレンにリンクは頭を抱えた――内心で"人の理性を弄んで楽しいんですか?!"とテワク達に文句を言うが、ふと目線をアレンの方へ向けると…暗い表情をしていた。
「…ウォーカー?」
「――やっぱり変ですよね…?」
「あ、いえ…そ、そうじゃなくて…!」
しょんぼりした顔をするアレンにリンクは"しまった!!"と思い慌てて取り繕うが…その都度スリットから覗くアレンの足に目が行ってしまい、言葉に詰まってしまうが…
どうにか"似合いますよ…"と言えば、アレンの顔が"ニコ"と笑顔になる。
それを見てホッとしたのも束の間…リンクの携帯が連続でメールを知らせだした――"本当に何なんだ!"と思い、届いたメールを見てみれば…。

"いい加減、言え"(マダラオ)
"さっさと言いなさい"(トクサ)
"いい加減に言えよ"(キレドリ)
"情けないにも程があるぞ"(ゴウシ)
"ココまで私と兄様達が御膳立てしてるのに、言えなかったら"ヘタレ"って言いますからね!!"(テワク)

(――ば、バレてる…完全に…!!)
主語が抜けているものの…各々メールで何を言っているか悟ったリンクは愕然とするのと同時に嫌な緊張感に襲われる――確かに…この状況は"告白"には持って来いの
状況だが、"心の準備も出来ていないのに告白できるか!"とも思ってしまう。暫く葛藤したリンクだったが…意を決して言う事にした。
「あの…ウォーカー。」
「はい、何ですか?」
その声に振り向いたアレンに、リンクはずっと思っていた事を言った。

「――私は貴女が好きです、お付き合いしてもらえませんか?」

そう言った後…暫くの間、重苦しい空気が漂ったが――その空気を破ったのはアレンの方だった。

「えっと、ですね…リンク――。」
「――は、はい…。」
アレンの呼び掛けに、リンクは"ビクッ"とする――恐らく"失恋したのだろうな"と思ったが…アレンの口から発せられたのは意外な言葉だった。
「――僕、女の子っぽくないですよ?」
「それがなんです。」
「…大食いですし。」
「――それは知ってます。」
言外に"おススメしません"とアレンは言うが…リンクは"それがなんですか"と言わんばかりにサラリと返すので、アレンは"うっ…"と思いながらもこう言った。
「それに――"キズモノ"ですよ、僕…。」
「――ウォーカー…。」
暗に"火傷の痕"を指すその言葉にリンクは、ちょっとだけ"ムッ"とした顔をする――どうにもこの子は自分を卑下する傾向が強い…恐らくは以前に"火傷の痕"や
"髪の色"とかで色々と心にも無い事を周囲に言われたのだろう――が…どんな事があったとしても、リンクにとってアレンは"魅力的でかわいい女の子"に違いないのだ。

「――私は貴女が貴女だから好きになったんです…」

そっとアレンの手を取りながらリンクが言うと、"ポンッ"とアレンの頬が赤くなる――余りに真剣なリンクの声と表情にアレンの胸がときめいたのだ。
(あ、何だ…僕もリンクの事、"好き"だったんだ…)
胸の中に広がった感情は、アレンの中に"ストン"と落っこちて来た――そして。

「――ぼ、僕でよかったら…」
「っ…!!」
か細い声で返ってきた答えに――リンクは感激の余りアレンを抱き締めてしまい…"ちょ、リンク…苦しいです!!"とアレンに言われて、我に返ったリンクは
慌ててアレンを放すと…顔を赤くしたままこう言った。

「その、ウォーカー――き、キスしても、いいでしょうか…?」
「えっ?!――ど、どうぞ…」

突然の申し出にアレンの顔も赤くなるが…了承の返事を返すと、ゆっくりと顔を近付けるリンクに…アレンははにかみながらこう言った。

「あの…これから、よろしくお願いしますね。」
「…此方こそよろしくお願いします。」

その言葉にリンクも思わず笑みを浮かべながらそう返す――外が後夜祭で盛り上がっている中…2人は静かに口付けを交わしたのだった。

End.



オマケ(会話文のみ)

「――大丈夫かしら…?」
「…失恋したらしたで、慰めてやろうじゃないか」
「それはそれで、面倒臭いぞ…」
「――それもそうですねぇ…」
「でもなぁ…ハワードの性格考えると、言えなさそうな気もするんだけど…」
「「「「――ありえそうで嫌だなぁ…」」」」

「…これでホントに言えなかったら、"ヘタレ"どころか――――(女の子が言うのは"ちょっと…"な言葉なので自主規制)って言ってやる。」

「「「「――女の子がそんな事、言うんじゃない(ありません!!)!!」」」」

End.

Title:『Fortune Fate』/Template:『Spica』
執筆中BGM:『恋するフォーチュンクッキー』、『淋しい熱帯魚』、『にんじゃりばんばん』