「――こんにちは」
そんな声と共に見慣れた顔が訪れた。
「いらっしゃ――あ、テワク。」
「こんにちわ、アレン。」
ドアベルが鳴ったので振り向いてみると、そこに居たのはダッフルコートを着たテワクだった。
「予約していたケーキを取りに来たのですけど…」
そう言って予約表をアレンに渡すと、アレンは"ちょっと待ってて下さいね"と言い残し…ケーキを包みだした。
そんなアレンを見ながら、テワクは店の中を見渡す――するとある事に気が付いた。
「そう言えば――リン兄様は?」
「――みんなと一緒に調理場に居ますよ。」
テワクの問い掛けにアレンが"流石に今日ばかりは"答えを返すと、テワクは"そうですわね…"と苦笑した。
そう、今日はクリスマス――普段ならルベリエ達だけで間に合う作業も"人手が足りない"と言う事で、今日ばかりはリンクも調理場組に組み込まれている。
「もうみんな朝からてんてこ舞いですよ…」
「――目に浮かびますわ…」
そんな事を言いながらも2人は揃って微笑む――何だかんだ言ってこの"ヴィータローザ"も評判がいいお店なのだ。
「はい、どうぞ」
その声と共に用意されたケーキを受け取り代金を払ったテワクは思い出した様にアレンに声を掛けた。
「そうですわ、アレン――バイト終わった後に予定ありますか?」
「?いえ、ありませんけど…」
その問い掛けにアレンが正直に答えるとテワクはこう言った。
「でしたら――リン兄様と一緒に家に来て貰えませんか?」
"クリスマスパーティーをしますの"と続けられ…アレンが"お邪魔しても良いんですか"と言えば、テワクは"勿論ですわ"と笑顔で返す。
「それじゃあ、バイトが終わったら行きますね。」
「分かりました――それと…そのサンタの服、似合ってますわ。」
アレンの返答を聞き店を出る寸前…テワクがそう言えばアレンは"ありがとうございます"と含羞む――そう…本日のアレンの服はオーソドックスなサンタガールだった。
そして、数時間後――仕事を終えたリンクとアレンは揃ってテワクの家へと向かっていた。
「――毎年の事ながら疲れました…」
「――僕もクリスマスのケーキショップでのバイトがこんなにキツイと思いませんでした…」
本日の忙しさを思い出しながら2人は溜息を吐く…夕方近くになると客が挙って来たので、最後の方にはバイト慣れしているアレンでも流石に疲れた。
そんな今日の忙しさを思い出しながら2人はゆっくり歩く…そしてもう直ぐテワクの家に着く頃――リンクはアレンに袋を差し出した。
「ウォーカー、これを。」
「?」
その言葉と共に差し出された袋にアレンが首を傾げていると、"今日は君の誕生日でしょう"と言われ…アレンはようやっと今日が誕生日である事を思い出した。
「そう言えば…すっかり忘れてました。」
その言葉に"ガクッ"と項垂れたリンクだったが…"中身を見て良いですか?"と続くアレンの声に、気を取り直して"良いですよ"とリンクが答えると、
アレンは早速袋を開けだした。
「わ〜…!」
袋の中身を見てアレンは感嘆の声を上げた――袋の中に入っていたのは、真っ白な手袋だった。
「これ、貰ってもいいんですか?」
「ええ――君の為に選んだ物ですから。」
手袋とリンクの顔を見比べながら言うアレンに、リンクが笑顔で言うと…アレンは"ありがとうございます"と笑顔を浮かべた――そんなアレンの笑顔を見て
リンクは"選んだ甲斐があった"と心の底から思った。
「あ、そうだ――僕もリンクにプレゼントがあるんです。」
思い出した様にそう言ってアレンはバッグの中から袋を取り出し…リンクに手渡した。
「開けても構いませんか?」
「良いですよ。」
アレンの了承を得てリンクは袋を開け中身を見て驚いた――袋の中に入っていたのは、モスグリーン色のマフラーだった。
「この間"マフラーが寿命を迎えた"って言ってたじゃないですか。」
驚いた様子のリンクにアレンがそう言うと、リンクは"覚えていてくれたんですか"と呟いた。
実は先日――愛用していたマフラーがとうとう寿命を迎えてしまい…買わなければと思っている事をアレンに言った覚えはあった…がまさか
それをアレンが覚えていてくれていたとは思わなかった。
「…大事に使わせてもらいますね。」
「――はい!」
優しい笑顔を浮かべてリンクが言えば、アレンはとびきり可愛い笑顔でそう言ってくれた。
「そう言えば――リンクの誕生日って何時なんですか?」
「君とそう離れていませんよ――29日ですから。」
「え?!どうしよう、プレゼント…」
「構いませんよ、君から貰ったこのマフラーで十分です。」
「でも――それじゃあ、僕の気が済まないんです。」
「では――29日は、私と一緒に居てくれませんか?」
「…それだけでいいんですか?」
「それだけで十分です。」
…そんな会話を交わし、2人は自然と寄り添いながらテワクの家へと向かった。
そして――家に着くとテワク達に"メリークリスマス!"と迎えられ…思わず皆で笑ってしまった。
この年のクリスマスがアレンにとって思い出に残るクリスマスになったのは言うまでも無い。
End.
Title:『Fortune Fate』/ 執筆中BGM:今回は無し!