疲れた身体を引きずって、部屋に戻ると――其処には先客がいた。
「家康…貴様、何をしている?」

無自覚テンプテーション

 

「あ…三成…。」
部屋の主が戻った事に気付いた家康が、軽く声を掛け応じる――が、その顔は
常と比べれば赤く…目に至っては何処か虚ろだった。

「おい…?どうし――」
何やら家康の様子がおかしい事に三成は気付き、確かめようとしてその頬に触れた
その瞬間――。
「は――ぁ、っ!」
「!?」
吐き出された息の熱さに驚いて、三成が思わず手を引けば…家康の苦笑と共に
とんでもない爆弾が落っこちた。
「スマン…一服、盛られた…。」
「何だと!?」
その言葉に驚いて家康を問い詰めれば、今日交渉に行った所で一服盛られたのだと言う――幸いな事は、交渉の場で薬の効果が出なかった事だろう――思い返して
みれば、この男を使者に指定してきた時点で何やら妙な感じがしていたが、
ようやっと合点がいった。
相手はコレを"喰う"気だったのだ。

(――殺す!!この世から、跡形も無く消し去ってやる!!)

三成が内心で怒りを滾らせていると、着物の袖を掴まれた為、そちらに顔を向ければ――家康がジッとこちらを見つめていた。
「――みつなり…?」
「………」
何とも不安そうな顔で見つめられてしまい、取り敢えず相手への怒りは後回しにする
事にして三成は、家康に問いかけた。

「――助けて欲しいか?」
「‥‥」
その問いかけに、家康は思わず口を噤んでしまう――が、その目は訴えていた…
『助けて欲しい』と。
そんな家康に『素直に言えば良いものを…』と三成は思いながらも、
更に畳み掛けていく。

「貴様の選択肢は、2つに1つ――私に身を委ねるか、それともこのまま薬が
抜けるまで耐えるか――のどちらかだ。」
それを聞いた、家康の目が更に潤む――恐らくは理性と熱の間で
揺らいでいるのだろう…が、時期に耐えられなくなるのは明白だった。
三成は止めとばかりに、家康の耳元で囁いた。

「もう1度聞く、家康――私にどうして欲しい。」
「ぁ、う…た、たすけて…――。」

その言葉が家康の口から零れ落ちたと同時に、三成の部屋の灯火は消えた――
まぁ、その後は…言わずもがな、である。


――後日…この1件の原因となった人物を見事なまでに、戦場で吹っ飛ばした三成が
其処におり、それを見てしまった兵士達は見事に震え上がって居たと言う…。
しかし、その様子を見ていた『刑部』こと――大谷吉継は…。

「やれやれ…"アレ"(徳川)がらみで三成を怒らすでない――。」

――と、非常に重い溜息と共にこう語ったのだった。

End.

Title:『Fortune Fate』/Template:Spica
執筆中BGM:『Break the PHANTASM!!』