「いえやす――か?」
目の前の艶姿に思わず固まった。

袖をつかんで、腕をつかまえて


「おーい、三成?」
目の前で硬直している三成に家康は声を掛けるが、三成は未だ固まったままだった。
(もしかして…似合わないとか…?)
固まったままの三成に、家康はそんな事を考える――実際には着物姿が余りにも
似合いすぎて三成は固まっているだけなのだが…家康の表情は段々と暗くなって
行く。
「――そんなに…着物、似合わないのか…?」
「っ…――い、いや、そんな事は無い!」
沈んだ声に三成が我に返って見てみれば、家康がしょぼぼんとした顔をしており…
それに慌てた三成がそう言うと、家康は小首をかしげながらこう言った。
「――ほんとうに?」
その言葉と仕草にグラリと目眩を感じながらも、三成が首が捥げんばかりの勢いで
頷けば、家康の顔に笑みが浮かび、それを見た三成はホッと溜息を吐いた。

「――そう言えば、家康…聞きたいんだが。」
「ん、何だ?」
取り敢えず玄関先で話を聞くのもアレなので、部屋に入れた所で三成は家康に
声を掛け、部屋に来た用件を尋ねる事にした。
「――何の用で来た、こんな時間に来るなんて貴様らしくない。」
「あー…ん、その、な…」
「――?」
そう尋ねると――途端に、視線を右往左往させだした家康に首を傾げながらも、
三成は静かに答えを待った――彼を知っている人間が見ていたのなら、
『明日は槍が降るぞ』と驚愕する光景である。

「二年参り――一緒にどうかなって、誘いに来たんだが…ダメか?」
顔をほんのり赤く染めながら家康が、此処に来た目的を言えば…三成はその手を
掴む。
そんな三成に吃驚しながらも、家康は三成の答えを待った。
「…喜んで。」
少し間を空けて了承の返事を返せば、家康の顔に笑顔が浮かんだのだった。

(――この笑顔が見られるのなら、何処へでも付き合ってやる。)
家康の華の様な笑顔を見つめながら、三成は心の中でそう呟いた。

――どうやら、今年最後の日も…そして来年も、この笑顔には敵わない様である。

End.
Title:『Fortune Fate』/Template:『Spica
執筆中BGM:「幽雅に咲かせ、墨染の桜 〜Border of Life」