「「――あ。」」
見知った顔にお互いに声を上げた。

早緑月に祈りを奉げ


「やあ、三成君。」
「は、半兵衛様――?!あ、明けましておめでとうございます!!」
声を掛けた途端に、年始の挨拶をする三成に半兵衛はクスリと微笑んで挨拶を返す。
「はい、おめでとう――所で、1人かい?」
「あ、いえ…その――」
急に言葉を詰まらせた三成に、半兵衛は『おや?』と首を傾げ…三成の言葉を待つ――
その無言の圧力とも言える間に耐え切れなくなった三成は、正直にこう言った。
「友人というか…隣人に誘われたのですが――」
「――逸れちゃったんだね。」
半兵衛のその言葉に、三成はガックリと項垂れた――そう、家康と二年参りに
来たのは良かったが…余りの人の多さに、お互いが人波に飲まれて
逸れてしまったのである。
「まあ、僕も人の事は言えないけどねー。」
「は?」
半兵衛の言葉に三成は間の抜けた声を上げ――そして漸く、ある事に気付いた。
「あの…半兵衛様、つかぬ事を御聞きしたいのですが…。」
「――何だい?」
その事を尋ねる為、三成は怖ず怖ずと半兵衛に声を掛け――半兵衛もまたその
問いかけを待った。
「…秀吉様は?」
「――逸れちゃった、あはは。」
それを聞いた三成は、『其方もですか…』と思わず頭を抱えたのだった。

一方、その頃――。

「わ、す‥すみませ――」
「む。すまな――」
人にぶつかりそうになった家康は、謝罪の言葉と共に危うくぶつかりそうだった人の
顔を見て『あ』っとした表情を浮かべ…そして相手もまた同じ様な表情を浮かべた。
「あ、秀吉公。」
「家康か――元気そうだな。」
見知った顔にお互いにホッと息を吐き――家康と秀吉は改めて顔を見合わせ、
年始の挨拶を交わす。
「あ、そうだ――明けましておめでとうございます。」
「うむ――今年もよろしく。」
挨拶を交わした2人だったが…参道で立ち止まっては邪魔になりかねないので、
取り敢えず参道の脇に移動する事にした。
「――着てくれたのだな、振袖。」
「ん?ああ。」
まじまじと家康の姿を見ながら言う秀吉に、家康はポリポリと頬を掻く――贈り主から
そう言われると、何だか照れ臭く感じてしまう…例えそれが『正月に一度戻れ』と言う
メッセージだったとしても。
「似合っておるぞ。」
「…ありがとう。」
秀吉のその言葉に、家康は…そう言ってニコリと笑顔を浮かべたのだった。

「そう言えば――1人で来たのか?」
「え?ううん、友達誘って来たんだが…逸れた。」
苦笑しながら『逸れた』と言う家康に、秀吉は何処か遠い目をする。
「…お前もか。」
「え、秀吉公もか?」
返って来た秀吉の言葉に、家康は思わず目を見張り――2人揃って、
臨時設置されている迷子の案内所に行こうと思ったその瞬間、秀吉の携帯が
音を立て…秀吉は急いで携帯の通話ボタンを押した。
「我だ」
『あ、秀吉――やっと繋がった。』
聞こえて来た声に、秀吉はホッと溜息を吐き――相手に現在地を尋ねた。
「半兵衛か、今何処に居る?」
『僕?僕はねぇ――拝殿のちょっと手前に三成君と居るよ。』
「三成もか?」
ある意味意外な人物と居た事に秀吉は驚く――あの出不精な養い子が、こんな
人込みに居るとは思わなかったから。
『うん――家康君と来たのはいいけど、逸れちゃったんだって。』
そんな秀吉の心情を察してか…半兵衛がコッソリと言った感じでそう言えば、
秀吉の顔に苦笑が浮かぶ。
「分かった――我も家康とそっちに行く。」
『あれ?家康君、拾ったの?』
秀吉がそう言うと、半兵衛からはそう返って来…秀吉は思わず乾いた笑いを発する。
「拾ったとは…まぁ、直ぐに行く。」
半兵衛に短くそう言って、秀吉は携帯を切り…家康の手を握って歩き出した。
「秀吉公?」
「また逸れたら大変だからな。」
首を傾げる家康に秀吉がそう言えば、家康は『そうだな』と言って秀吉の大きな手を
逸れない様に握り締めた。

そして、数十分後――。

「あ――秀吉ー。」
半兵衛のその声に釣られて、三成が後ろを見て見ると…其処には――遠目からも
分かる、貫禄たっぷりな秀吉の姿があった。
「ひ、秀吉様!明けましておめでとうございます!!」
「うむ…今年もよろしく…。」
秀吉が着いた瞬間、三成は年始の挨拶をするが…秀吉の声に覇気は無い――
流石にこの人込みで精神的にグロッキーになってしまったらしい。
「大丈夫かい、秀吉?」
「我は未だ良いが…。」
半兵衛が苦笑しながらそう尋ねると、秀吉はそう言って後ろを見遣る――その視線に
釣られて、三成が秀吉の後ろを見れば…其処には秀吉の背に凭れる様な形で
家康が居た。
「い、いえやすぅううううう??!!!」
「あー…みつなり…」
叫ぶ三成に家康は軽く手を上げて応じる――が、そんな家康にお構いなしに、三成はこう尋ねた。
「何故、貴様が――秀吉様と一緒に居るんだぁぁあ!!!?!!」
「え?!いや、知り合いだし…と言うか、三成こそ何で秀吉公を知っているんだ?」
鬼気迫る表情で尋ねられた家康は、吃驚しながらもそう答えて――三成に尋ね返す。
「あ――そう言えば、言い忘れてた。」
「――半兵衛…。」
『あはは』と笑いながら言う半兵衛に、秀吉はジトッと半兵衛を見るが…最早慣れて
いるのか、そんな秀吉の視線を気にせずこう切り出した。
「実はね、家康君――君が留学した後、三成君を引き取ったんだ。」
「――成る程。」
その言葉に家康は納得した――そりゃ、自分が留学した後に引き取ったのなら
知らなくて当然である。
そんな家康の様子を見て、次に半兵衛は三成にこう言った。
「そして、三成君――家康君は以前、秀吉が後見人として面倒を見て居たんだよ。」
その言葉に三成は固まってしまった――だって、そんな事一言も聞いてないし…第一
それでは家康は秀吉の娘も同然ではないか。
(も、もしかして――私は…身内に恋をしてしまったのかぁぁああ!?!!!!!)
そんな事を考えていると、ある意味救いとも言える半兵衛の言葉が三成の耳に
届いた。
「あ、言って置くけど――あくまで僕らは『後見人』であって、
家康君は『養女』じゃないよ。」
それを聞いた三成は、ホッと胸を撫で下ろし…それを見た保護者達は、生温い笑顔を
浮かべた――が、家康だけは首を傾げていたのだった。

そして――4人揃って、改めて拝殿へ向かい…各々の願い事をするのだった。

End.
Title:『Fortune Fate』/Template:『Spica
執筆中BGM:「天より降る魔」