気紛れに寄った、ペットショップ…そこで。

「――…っ。」

――一目惚れしちゃいました。

出会い


「ありがとうございましたー。」
暢気な声を背に受けながら、店を出た三成の手には専用の餌が…そして――。
「――早く来い。」
その後ろには――自分より頭2個程に身長が低い愛らしいうさぎがトコトコと付いて
来ていた。

帰宅してまず行ったのは、『うさぎの飼い方』と書かれたマニュアルを見る事だった。
『飼った事がない』と言った三成に、店側が善意で渡してくれた物だ。
「…そこ等辺にでも座れ。」
マニュアルを読んでいる間――家に入ってからきょろきょろとしているうさぎに
そう言えば、うさぎはソファの上にちょこんと座った――意外と御行儀が良い。
そんなうさぎを見ながら、三成は店員との会話を思い出していた。

『あのうさぎをくれ。』
『――あの仔をですか?』
そう言った途端に驚いた店員に、三成は首を傾げた――そこまで驚く事だろうか?
『良いんですけど…その――』
『何だ、ハッキリ言え。』
口篭る店員に三成は苛立ちを感じ…怒りのオーラを纏って店員を急かす――その
雰囲気に呑まれそうなった店員だが…意を決してこう言った。

『あの仔――声が出ないんです。』

――それを聞いた瞬間…三成は目を見開いた。

『声が出ない――だと?』
『あの仔――本当は喋れる筈なんですけど、捨てられたショックで声が出なく
なっちゃったんです。』
驚く三成に店員は目を伏せてそう説明する――更に「元々は店の前に捨てられていた」と
言えば、三成はますます驚いた。
『だから…あの仔――。』
『…声が出なくても構わない、私はあのうさぎが良い。』
目を伏せて言う店員に、暫し――間を空けながらもそう言った三成に、店員は本気を
感じ取ったらしく…『分かりました、大切にしてあげてくださいね?』と言って、三成に
このうさぎを売ってくれたのだった。

マニュアルを読み終えた三成は、テーブルの上にそれを置いて――ソファに座って
いるうさぎを見つめる。
(――見目はいい…――が、何故捨てられたんだ…?)
実際――三成の目から見ても、このうさぎは見目がいい方である――ピンと
立った耳、クリッとした目は…紛れもなく愛らしいといえる物だった。
――クイッ
「ん?」
服を引っ張られた感覚に横を向けば…何時の間に移動してきたのか、うさぎが三成の顔をジッと見つめていた。
「…何でもない、寝るぞ。」
何かを訴える様な目に気付いて、三成が時計を見てみれば――既に普段の就寝
時間を過ぎていて…当のうさぎも眠たそうな目をしていたのでそう言えば…うさぎは
コクリと頷いた。
そんなうさぎの様子を見ながら、三成はもう一つある事を思い出した。

『あ、この仔――名前付いているんですけど、大丈夫ですか?』
『――ああ、大丈夫だ…何と言うんだ?』
『この仔の名前は――』

「…おやすみ――家康。」
ベッドに潜り込んだ途端に、眠りに就いたうさぎ―家康―にそう言って、三成も
目を閉じた。

――こうして…1人と1匹の生活が始まった。

End.
Title:『TOY』 /Template:『Spica
執筆中BGM:『JAP-Remix-(ANIME HOUSE PROJECT〜戦国・幕末MIX〜 Ver.)』