「――今日はこれで失礼する。」
終業時間になった途端…その一言と共に出て行った三成に、
会社の面々は凍りついた。

恋は人を変えるのです


三成が出て行った後――会社は阿鼻叫喚に近い状態なった…そりゃそうだ、あの
『仕事の鬼』な三成がこんな早い時間に帰るなんてありえない事だった。その為…
『明日は槍が降るぞ…!!』や『いや、彼女でも出来たのか…?!』と皆は
騒ぎ立てていたが――この人物だけは少々違っていた。

(やれ…騒がしき事よ…。)

三成の同僚兼親友の大谷吉継である――こう思っている大谷だが…実は皆と
同じ様にとっても気になっていた。
だってあの三成が、こんなに早くに帰宅するなんて今までにあっただろうか?――
いや、ない。
(――確かめて見るか。)
そう決めた大谷は、定時上がりだった事もあり…帰る支度をして会社を出て行った――序でに携帯で三成にメールを送るのも忘れずに。

――♪〜♪〜
(メール…?――刑部からか。)
聞き慣れた着信音に携帯を開いてみれば、そこにあったのは親友の名前――が、メールの内容を見て愕然とした。

『――主の家に邪魔するが、構わぬか?』

内容を見た三成は慌てた、これ以上無い程に――普段の三成なら迷わず了承の
返事を返す所だが…只今、三成の家には他人に見せたくない程に
可愛がっているものが居る訳で…。
(――だが…刑部に隠し事をする訳には――どうすれば…?!!?!!)
散々悩んだ挙句…三成は大谷へ了承の返事を返した後、家へとダッシュで帰宅した
――尚。余計な事だが『刑部』と言うのは大谷の愛称である。

――ズダダダ、ガチャ、バタン!!
「今帰ったぞ!!!」
『おかえり、三成!!』
凄まじい音を立てて帰ってきた三成に、家康はトタトタと駆け寄って三成に抱き付く――そんな家康の出迎えに、思わず顔が緩むがそれ所ではない。
「いいか、家康――これから客が来るが…貴様は寝室の方に居ろ。」
『…何でだ?』
コトリと首を傾げながら見つめてくる家康に、クラリと目眩を感じたが…三成は
グッと耐え、家康に言い聞かせた。
「兎に角――寝室の方で大人しくしているんだ、いいな?」
『…分かった。』
何か色々と必死な三成の気持ちを汲み取ったのか…家康がコクリと頷いた、
その瞬間――。

――ピンポーン…♪

鳴り響いたチャイムに三成は大谷が来た事を悟り、慌てて家康を寝室へと移動させ…自らも玄関へと向かった。

――ドタ、ガチャン…!!
何やら響き渡る音に、(一応)土産片手に訪ねて来た大谷は一瞬何事かと思った。
(三成よ…主は何をして居るのだ…?)
鳴り響く音に大谷がそう思っていると――目の前のドアが開いた。
「ぎょ、刑部…来たのか…」
息を荒げて出てきた三成に、大谷は一瞬面を喰らったが…取り敢えず三成に土産を
渡し、普段の時と同様にさっさと三成の家に上がりこんだ。
「三成よ――先程、何かしておった様だが…」
「い、いや――何でもない…!!」
(本当に主は隠し事が苦手よなあ…。)
尋ねたと同時に肩をビクつかせた三成を見て、大谷は苦笑する――相変わらず
隠し事が不得意な男である。
そんなこんなでリビングに辿り着いた大谷は、微かな違和感を感じた。
「三成よ――ちと物を尋ねるが…何やら、生活感が増しておる気がするのだが…?」
「そ、そんな事は無いぞ?!」
大谷の指摘に三成はそう言うが…大谷は怪訝な表情を浮かべる。
確かに――以前来た時と比べて、然程物が増えてる訳でもない…が、何と言うか…
温もりが感じられると言うか、雰囲気が柔らかくなっているのだ。
(…我に何を隠しておるのだ、三成よ。)
何やらワタワタしている三成に、大谷が再び尋ねようとしたその時――。

――カタン。

「何の音よ――?」
『だれ…?』
「い、いえやす…!!」

物音に振り向いてみれば、何とも愛らしいうさぎがそこに居た。

「家康、出てくるなと――!!」
『だって…お腹すいた…。』
出て来てしまった家康に三成が叫ぶと…しょぼぼんとした表情で唇を動かす家康に、三成は餌をやり忘れていた事に思い当たって『しまった』と頭を抱えた。
その様子を見ながら、大谷は悟った――三成がさっさと帰宅した理由はこれだと。
「――愛らしいうさぎよ、主の名は何と言う?」
「ぎょ、刑部?!!?!」
『ワシか?ワシは家康と言うぞ。』
そう尋ねた大谷に驚く三成を余所に、家康はニコリと笑って唇を動かした。
「…声が出ぬのか?」
『…分かり辛いか?』
パクパクと唇を動かすだけの家康に、声が出ない事を察した大谷が尋ねた途端に
表情を曇らせた家康に『そんな事は無い』と言いながら頭を撫でてやれば家康は
ニコリと笑った。
『そう言えば…。』
「ん?」
『おにーさんの名前は?』
コトリと首傾げながらそう尋ねた家康に、何かが擽られたのか…大谷はぎゅうと音が付く程に家康を抱き締めた。抱き締められた家康は驚きながらも何やら嬉しそうに
はしゃいでいる。

そんな2人を見ながら、三成は『だから会わせたくなかったんだ…』と
溜息を吐いたのだった。

End.
Title:『TOY』 /Template:『Spica
執筆中BGM:『熱き鼓動』&『[英語で]ワールズエンド・ダンスホール[歌ってみた]』

オマケ(と言う名の会話文)

「のぉ、三成。」
「何だ…刑部?」
「あのうさぎ、我にくれぬか?」
「それだけはダメだ。」
「――ケチだな、主は…。」
「ケチじゃない!!」

その2 (翌日の光景:アニキと大谷と三成)

「おい、大谷!!」
「何ぞ?」
「昨夜、石田に会ったんだろ?!」
「ああ。」
「アイツ、彼女でも出来たのか?!」
「彼女――まあ、近いか…。」
「何っ!!?!」
「実に愛らしいコイビトが家に居ったからなぁ、ヒヒッ。」

「石田ぁぁ!!!」
「?!?!!」
「お前、彼女出来たんなら言えよ!!水臭ぇぞ!!!」
「ちょ――刑部!貴様、長曾我部に何を言ったぁぁあああ!!??」
「ん?主に愛らしいコイビトが出来たと言っただけぞ?」
「んなっ?!!!?!」

End.