漂う香りに、思わず喉を鳴らした。
試されるのは愛か体か
その日――三成は手土産を持って、とある部屋の前に居た――が、先程から部屋の主に呼び掛けているのに、まったく応答が無いので…勝手に部屋に入る事にし…
三成は襖に手を掛けた。
「入るぞ…――家康?!」
倒れている部屋の主―家康―に気が付いて、思わず慌てて駆け寄った。
「起きろ、家康!!」
「ん、んぅ…三成、か?」
怒鳴りながら身体を揺すってやると、子供がむずがる様な声と共に家康は
目を覚ました。
「貴様ぁあ――!!、私が来てやったのに寝こけているとは…!」
「あ〜…すまん…」
青筋を立てながら怒る三成に、家康は謝罪する――が、普段の謝罪と違い何処か
漫ろと言うか、生返事に近い物だった。
流石に様子がおかしい事に気が付いた三成は、家康に少々ばかり尋ねる事にした。
「家康、貴様…何処か悪いのか?」
「いや…そう言う訳じゃないんだが…。」
「じゃあ、何故倒れていた。」
歯切れ悪く答える家康に、痺れを切らした三成が強い口調で問い詰めれば…――。
「何か。急に…身体が、熱くなったんだ…」
――と、目を潤ませながら家康はそう言った。
(――身体が、熱い…だと?!?)
余りにも衝撃的ともいえる一言に、三成は混乱した。
そして混乱する思考の中、部屋に漂う甘ったるい香りに三成は漸く気が付いた。
(この甘い匂い…ま、まさか…『発情期』か!?)
三成が思い当たった可能性、それは――『発情期』だった。
よくよく考えてみれば、目の前に居るのは年頃のお嬢さんである…しかも、ちょうど
今は繁殖の季節である上に、形に至っては―中身はともかく―大人の女なのである。
(――何故気付かなかったんだ、私は――!!)
「三成?」
三成が心の中で叫んでいると、ほぼ目の前とも言える距離に家康の顔があって、
思わず肩を揺らし…耳を立ててしまった。
「何か変な顔になって――」
「――な、何でもない…!」
そう尋ねてくる家康に、平然と努めながら三成は言うものの…部屋に漂う匂いもかなり
濃くなっている事もあり、声はど完璧に裏返っていた。
『このままでは、拙い』と察した三成は部屋を出て行こうとしたが、着物の裾を
引っ張られてしまった。
「い、いえやす…?」
「みつなり、何処行くんだ…?」
声が引き攣っている三成に対して、家康は先程よりも目を潤ませ、尻尾に至っては
『しょぼぼん』と下がってしまっている。
そんな家康の様子に、三成は『クラリ』と目眩を感じるのと同時に、内心で
冷や汗をかく――が、そんな三成の心境などお構いなしと言わんばかりに、家康は
止めの一言を言った。
「――ここに、ワシの側に居てはくれないのか…?」
…その一言と共に、三成の理性が切れてしまったのは――言うまでもない。
End.
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