(――今年もこの日が来たか…)
騒ぐ女どもを見ながらそう思った。
恋心と蜂蜜お月様
(…もう少し静かに騒げ。)
姦しくしている女性達を見ながら、三成は心の中で一人ごちる――そんな彼女達の
話題はもっぱら近付いて来ている、バレンタインに関してだ。
三成にとって『バレンタイン』と言う日は昔から苦痛――いや、寧ろ滅べとも
思っている程に嫌いな日でもある。
何故なら――女どもは鬱陶しい事この上ないし、嫌いな甘い物を押し付けられる等…
碌な事が無いからだ。
(ふん…精々、無駄に頑張る事だな。)
嫌な過去を思い出し…そう思った所で、三成は講義に向かう為――その場を
後にした。
(そう言えば――アイツはどうする…ッ!!)
講義に向かっている途中…先程のバレンタインの話題の所為か、三成の脳裏に
ある人物が過ぎり、思わず心臓が跳ねた。
(な、何を考えているんだ私は!)
脳裏に過ぎった影を振り払おうと、三成は頭を振るが…1度過ぎった影は中々
消えてくれず心臓の鼓動は激しくなるばかりだ――幸いなのは此処が人気の無い
廊下であった為、三成の奇行が目撃されて無い事である。
(大体――家康が誰に、ちょ、チョコレートをやろうが…私が気にする事では
無い筈だ!!)
そう――三成の脳裏に過ぎったのは、お隣さんであり片想いの相手である
徳川家康だった。
三成は――初めて家康に会った時から、家康の事が好きだった。出会いは…
コントじみた感はあったが、それでも一目惚れという形で好きになってしまった。
そして――今まで言い寄ってきた女とは違い、媚びる事もなく自然体で接してくる
家康に三成は益々惹かれて行ったのだ。
「…それに、家康は『好きな人が居る』と――。」
重い溜息と共に三成は呟く――以前、家康を探していた時にうっかり家康への
告白現場を見てしまった事があった、その時家康は――。
『ゴメンな――ワシ、好きな人が居るんだ。』
と――やんわりながらもキッパリと断っているのだ、それを物陰で聞いていた三成は心臓が冷えたのを覚えている。
その1件もあり――三成は家康に告白する事もなく、恋心を胸に秘めたままだった。
だが…世間は折りしも、バレンタインシーズン――片想いの相手が居る男にとっては、
非常に気になって仕方が無い時期となっていた。
(――玉砕覚悟で告白すべきなのだろうか…?いや、もしフラれたら
絶対に立ち直れない気がする…)
心の中でそう思いながら、三成は講義を受ける教室へと向かったのだった。
その表情は――傍から見れば片想いしている事が丸分かりな、悩ましげな
表情だった。
End.
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