「何で、ワシに絵を彫らないんだ?」
問い掛けて来る無垢な声に溜息を吐いた。
恋の温度
「――言ってるだろう、貴様はまだ子供だ」
「ぶー。」
少々間を空けて言い返せば…見事に膨れる恋人の頬に、彫師である三成は内心
苦笑する。
そんな三成の心中を知ってか知らずか…恋人である学生―徳川家康―は更に頬を
膨らませた。
彫師と学生――一見接点が無さそうだが…そんな2人が出逢った切欠は、店の前に置いてあった見本の絵を熱心に見つめていた家康に、三成が惚れ込んでしまった
と言うのが事の端末である。
「兎に角――さっさと身体を洗って来い。」
「はーい。」
何時もの様にタオルを家康に投げ渡してやると、家康はバスルームへと姿を消した。
「…やれやれ。」
バスルームへと向かった家康を見送った三成は、軽く溜息を吐く。
本当は…三成とて、家康のあの――柔い肌に、思う存分に己の考えた絵を
刻み込みたいのだ。
だが――家康はまだ学生でその上…未成年者だ、流石に子供に刺青を彫る趣味は
三成には無い。
(ああ――早く、あの肌に…)
そんな事を考えている内に、バスルームのドアが開く音がした。
「おーい、三成。上がった――うわぁ?!」
そう言った途端に抱きかえられた家康は驚いた声を上げるが、そんな家康に
お構い無しに三成は家康を寝台の上に座らせる。
「三成…。」
「ふん――始めるぞ。」
何時もの事とは言え苦笑する家康に、三成はそう言う――その手には『メヘンディ』と
書かれたコーンが握られていた。
そう――三成は家康に絵を彫らないが…代用行為として『ボディペインティング』の
一種である『メヘンディ』を2週間に1度程のペースで施しているのだ。
「…つめたい。」
「…我慢しろ。」
模様を描く毎に感じる冷たさに、風呂上りの家康は身を震わせるが…三成は短く
返して、模様を描いていく――2人にとっては何時もと何ら変わらぬ遣り取りである。
そんなこんなで、数十分後――家康の両足の甲には、美しい花の模様が
描かれていた。
「乾くまで、暫く待て。」
「――うん。」
模様を描き終えた三成が、保護テープを模様の上に貼りながら家康にそう言えば…
家康は描かれた模様を見つめながら返事を返し…足をブラブラと揺らした。
「…今日のはどうだ?」
「うーん…蔦の絵は気に入ったけど、花の絵がちょっと…」
「――そうか。」
道具を片し終えた三成が、描いた作品の感想を尋ねてみると…家康はちょっとだけ
顔を顰めながら、そう言う――気に入らない所があれば、家康は言ってくれる為…
次のデザインを考える時の参考になるのだ。
それを聞いた三成が『次は善処する』と言ってやると、家康は『分かった』と笑顔で
言った。
約2時間後――。
「終わったぞ。」
「――ありがとう。」
完全に乾いたペーストを剥がし終えて…三成がそう言えば、家康は帰る支度を
始める。
「――帰るのか…?」
「ん?ああ…もう、時間だし――ッ?!!」
帰り支度を終え、いざ帰ろうとした途端…三成は家康の腕を引っ張り、寝台へと
押し倒した。
「うわ?!――み、みつなり…?」
押し倒されて驚いた家康だったが…三成から感じる異様と言うか、妙な気配に顔を
引き攣らせた。
「あ、あの…ワシ、今日は――」
「ダメだ――帰さない。」
この先の行為を察した家康は何とか止めさせようとそう言うが…三成はキッパリと
そう言い、家康の制服のシャツの裾からその手を滑り込ませる。
「ひゃ?!なぁ、ホント止め――あぅ!」
「…学校帰りに来る貴様が悪い。」
乳房を強く掴まれ声を上げる家康に…ある意味、理不尽とも言える事を言う三成に
溜息を吐きたくなったが…これも何時もの事なので、最早家康は諦めている――
文句を言う代わりに、三成の首に手を回し…了承の意を伝えたのだった。
そして――家康の柔らかな肌に触れながら、三成は何時も思う。
(早く――この肌に刻みたい、私の物だと…。)
何時か来るかもしれないその時を、三成は唯…静かに待っている。
End.
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TOY』
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