「…どうやって渡そう…。」
綺麗にラッピングされたチョコレートを見ながら途方に暮れた。
無記名希望、弱気なビターチョコレート
「――どうしよう…。」
視線を彼方此方に彷徨わせながら、家康は途方に暮れた声を上げる――チョコを
作ったのは良いが…作る事に集中しすぎて、どうやって三成にチョコを渡すかを
考えるのをすっかり忘れていた。
「うう…」
頭を抱えながら――ふと、時計を見てみれば…バイトに行く時間が迫っていた。
(取り敢えず――バイトに行こう、それから考えよう…。)
悩む頭を抱えながら、家康はバイトに行く事にした――無論、チョコレートも一緒に。
(――騒がしい…!!)
大学に来た途端に感じる姦しさに、三成は頭痛を覚えた――
『此処で無駄に騒ぐ位なら勉強に集中しろ!!』と叫びたかったが…はあと重い溜息を
吐く。
(結局…私もコイツらと同類か…)
三成は心の中で呟く――表に出していないだけで、三成とて少しだけこの空気に
ソワソワしていた。
「家康…。」
そんな空気に釣られて思わず家康の名を呟いた三成だったが…本日、家康は講義が
無い為…一日バイトだと言っていたので此処には居ない。
(会いたい…。)
無意識の内に感じた寂しさに三成は、何処か沈んだ顔を浮かべたのだった。
因みに――そんな三成の背を女子達が狙っていたのは、言うまでもなく…1限が
終了した直後から、三成は女子達のバレンタイン攻撃に逃げる事となったのは…
お約束である。
「――お疲れ様でしたー!!」
お店の人にそう言って――バイトを終えた家康は、店を飛び出し家路に急ぐ。
早く帰らないと、三成が帰ってきてしまうからだ。
バイト中散々悩んだ末――家康が出した結論は、『三成が帰ってくる前にポストに
チョコを入れる』と言う、お約束な手段だった――が、背に腹はかえられなかった。
(急げ、急げ―――!!)
自分にそう言い聞かせながら、家康は全速力でアパートへと急いだ。
数十分後――無事にアパートへと戻ってきた家康は、ポストを見れば…未だ郵便物は
回収されておらず、三成が未だ不在と言う事を示していた。
(――良かった、まだ帰ってきてない…。)
ホッと息を吐いた家康は、急いで三成のポストを開けた後、郵便物を掻き分け…
紙製の手提げ袋ごとチョコレートを突っ込んで、ポストを閉じた。
(はぁ…疲れた――気づいてくれるかなぁ…?)
一仕事を終えて肩の荷が下りた家康は、そんな一抹の不安を抱えながらも…自分の
部屋に戻る為、階段を上っていくのだった。
「く、くそ…。」
家康が戻って1時間程が経過した頃――三成は…半ば死相に近い形相で
アパートへと戻ってきた。
あれから――バイトに行くまでの間、女性陣に追い掛け回され…漸く、大学を出て
開放されたと思ったら…今度はバイト先でチョコレート攻撃に遭うわで、バイトが
終わる頃には、三成は死に掛けていた。
(今日はもう、風呂に入って寝てしまおう…。)
心の中でそう決めた三成は、郵便物を回収しようとポストを開ける――と、そこには。
「な…」
ポストの中に入っていた手提げ袋を見た三成は、驚いた声を上げた――
『何で此処にこんな物があるんだ』と、心の中で呟いた。
しかし――これを取らないと、郵便物が回収出来ないので…三成は仕方なくその
手提げ袋を回収し…中身を見た。
(――やはりか…)
その中身を見た三成は、肩を落とす――何故なら、今日1日自分が逃げまくっていた品であるチョコレートだったからだ。
「ん…?――カードか…。」
袋にチョコレートを戻そうとした時…袋の底を見てみれば何やら入っていたので見て
見ると、メッセージカードが慎ましく置かれており、それを開いた三成は目を見開いた。
『三成へ――Happy Valentine! 家康より。』
それを見た三成は――急いで贈り主である、家康の部屋へと向かった。
「いえやすぅううう――――――!!!」
「ぅわあ?!!」
大声で叫びながら部屋に入ってきた三成に、家康は驚いて声を上げた――が、
その表情を見て思わず固まった…何故なら三成の目が異様に血走っていたからだ。
「――聞きたい事がある、良いか?」
「――はい…。」
その表情と気迫に押された家康は…三成の言葉にそう頷くしかなかった。
「家康――ポストに入っていたチョコレートは貴様が入れたのか?」
「はい――そうです…。」
「何故?」
「な、何故って…」
まるで取り調べの様に問い質してくる三成に、家康は泣きたくなった――やはり…
告白すべきではなかったのだ…と心の中で家康は思った。
(嫌いなら、ハッキリと言ってくれよ――みつなり…。)
最悪の結果にジワっと涙が込み上げて来る――そして、家康の目から涙が
零れそうになったその瞬間――家康は三成に抱き締められた。
「み、みつなり…?」
「いえやす――好きだ。」
三成のその一言を聞いた家康は、抱き締められたままの状態で固まった。
「え、あ――だ、だって…!」
「――信じられなかった…貴様からチョコが貰えるとは思わなかったんだ…。」
驚きの余りもがく家康を抱き締めたまま、三成は夢を見ている様な声色で家康に囁く――余りの状況に家康は呆然と呟く。
「本当に、ワシの事…?」
「未だ疑うか。」
そう呟いた家康に、三成は不服そうな顔をするが――それに構わず、家康はこう
言った。
「だって――あんな風に尋ねられたら…失恋したと思うじゃないか…!」
「――すまん…」
家康のその言葉に、三成は聞き方を間違ったのだとようやっと気付いて家康に
謝罪した。
「改めて言うぞ――好きだ、家康…。」
「ワシも――大好き…。」
お互いに言い合った後――自然と顔が近付いていき、唇が触れ合い…お互いに
満たされた気分になった。
そして…気持ちが通じ合った2人は――飽きるまでキスし合うのであった。
End.
back
Title:『
Fortune Fate』/Template:『
Spica』
執筆中BGM:『六十年目の東方裁判~Fate of Sixty Years』
オマケ(と言う名の会話文)
「ん…え、あ!?ちょ、ちょっと待て―――――!」
「…何だ。」
「えと、その――もしかして…」
「したい、駄目か?」
(――ストレートすぎるだろぉおお!!!!)
「い、いや…その――こら、手を滑り込ませない!!」
「――。」
「えっと、その…だな――」
「…?」
「――此処じゃ、ヤダ…三成の部屋がいい…。」
「…家康――貴様明日は?」
「へ?ああ…昼から2限程講義があるが、バイトは休みだ。」
「――なら…大丈夫か。」
「え、何が――って、三成?!!!」
「安心しろ――貴様が根を上げるまで存分に可愛がってやる。」
「…えぇええええ!!!???!」
(まぁ――ワシから仕掛けたし…仕方が無いかぁ…)
End.