(――綺麗な絵だなぁ…)
目の前に飾られている絵に、ただただ見とれた。

最後の一押しは強引に


学校帰りに見つけた、小ぢんまりとした店――雰囲気から、普通の店ではない事が
分かったが…其処に飾られている絵に、家康の目は釘付けになった。
(うわぁ…)
店の前に飾られている絵を見つめながら、家康は心の中で感嘆の声を上げる――
目の前にある繊細で緻密な花や蝶の絵は、何処か神経質とも言える画風だったが…
家康の目にはとても美しく映った。
そして、絵を見つめだしてから数分が経過した頃――。
「…何をしている。」
「わぁ?!!」
聞こえて来た声に、家康は文字通り飛び上がった。

店の主である――石田三成は、気分転換を兼ねて外に出ようとした所、店の前で
何やら立ち止まっている少女を見つけた。
(…?)
この店に来るには年端も行かない少女に、三成は首を傾げたが…少女の目線を
追い、何を見つめているのかが分かると、ああと納得した。
(――絵を見ているのか。)
店の前に置いている見本の絵に、少女は夢中になっているのだ――そんな少女に
興味を引かれて三成は、店の扉を開け、少女に近付く。
「…何をしている。」
「わぁ?!!」
そして声を掛けると――絵を見つめていた少女は、驚いたのか…文字通り
飛び上がった。

「す、すみません!!あ、あの、綺麗な絵だったから――。」
ワタワタと慌てて喋る家康だったが、当の三成はまるで観察するかの様に家康を
見つめ――その視線に気付いた家康は、目をぱちくりさせる。
「あの…?」
小首を傾げた家康の頬に触れ、その顔を覗き込んだ三成は――トクンと心臓が
跳ねたのを感じた。
(――かわいい…)
きょとりとしている蜜色の大きな目、均整の取れた身体は傍目に見ても美しく――
そして何より、三成の心を掴んだのは…その肌だった。
自分の不健康な白さとは違い…程好く日に焼けた肌は、非常に健康的で…
その触り心地もまるで吸い付く様だった。
(――見つけた)
余りにも理想とも言える肌に、三成は内心で歓喜の声を上げ――そして、家康の
腕を掴み…こう言い放った。
「…来い。」
「え、えぇ!?!!」
突然の事に困惑する家康に構う事無く、三成はそのまま店の中へと家康を
引きずり込んだ。

「ちょ、ちょっと?!!」
そのままの状態で、店の奥の部屋に連れ込まれた家康は、部屋に置いてあった
寝台に座らされると…学校指定のローファーと靴下を脱がされてしまい、戸惑った声を
上げるが…三成はお構い無しに家康の足に触れていく。
「おい――何か保湿用のクリームを使っているのか?」
「ふぇ?!い、いや!」
突然そう尋ねられて、家康は首を横に振り――それを見て、三成はある事をする為の
準備を始める。
「あ、あの…。」
「何だ?」
恐る恐る声を掛けてきた家康に、三成は手を動かしながら応じる――すると、家康の口から予想もしなかった言葉が零れ落ちた。

「…ワシに…絵を彫る心算なのか…?」

――その言葉を聞いて、三成の手が止まった。

「――何故、私が彫師だと分かった…?」
「…身近に、いるから。」
その表情に驚愕の色をありありと浮かべた三成が、呆然と呟く様に家康に尋ねると――当の家康は何処か怯えた表情を浮かべながら、そう返す。
「安心しろ――子供に彫る趣味は無い。」
「…本当?」
そんな家康の頭を撫でながら三成がそう言ってやると、家康は上目遣いで三成を
見つめる――そんな蜜色の目に、年甲斐もなく目眩を感じた三成だったが…グッ と
堪えて、準備を再開した。

そして数十分後――全ての準備を終えた三成は、家康の足を取り…片手に握った
コルネの様な絞り袋に入った暗緑色のペーストで、家康の足に絵を描き出した。

「それ、何だ?」
「これか?――『メヘンディ』と言うんだが…知らないのか?」
興味深そうに見つめてくる家康に、三成がそう返すと…家康はコクリと頷く――そんな
家康に、三成は少しだけ首を傾げた。
『メヘンディ』は名は知られていないだろうが…所謂『消えるタトゥー』として有名だ――
てっきり、己を彫師と見破ったこの少女は知っていると思ったのだが…。
そんな事を考えていると、急に無言になった三成を訝しく思ったのか…家康が声を
掛けてきた。
「――どうかしたのか?」
「いや…続けるぞ。」
その声に我に返った三成は、改めて集中しなおし…家康の足に模様を描いていった。

そして――1時間が経過した頃、家康の両足首から甲にかけて…流麗で緻密な花と蔦の模様が見事に描かれた。

「――終わったぞ。」
「うわぁ…!!」
その声に、家康は自分の足を見て感嘆の声を上げ、目を輝かせた――そんな家康を見て、三成もほんの僅かに笑みを浮かべ…使用した道具を片付け始めた。
「なぁ、これ――どれ位で、乾くんだ?」
「そうだな――大体、1〜2時間程掛かるな。」
足をぶらぶらと揺らしながら尋ねて来た家康に、三成がそう言えば――家康は
驚いた様な顔をして、傍らに置いてあった学生鞄から携帯電話を取り出した。
「あ…携帯、使っても――。」
「――構わん、好きにしろ。」
三成の了承を貰った家康は、急いで携帯電話のボタンを押して、耳元に当てた。
「あ、ワシだけど――ちょっと遅くなるから…え、うーん…ご飯は帰ってから貰う、ん…じゃあ。」
時間にして、数十秒――家族宛であろう家康の連絡はあっさりと終わった。
「――意外とあっさりだったな…」
「ん?ああ、ワシの家はちゃんと連絡すれば遅くなっても文句言われないから。」
幾分かの呆れが混ざった声色で三成がそう言えば、当の家康は携帯を鞄に
しまいながら笑ってそう言う――そんな家康に三成は溜息を吐いたものの…他人の
家庭に口出しすべきではないなと思考を切り替え…三成はある事を家康に尋ねた。

「そう言えば…まだ、名前を聞いていなかったな――貴様の名は?」
「ワシか?いえやす、徳川家康――お兄さんは?」
「私か?――私は、三成…石田三成だ。」

そんなこんなで互いに名乗って色々話していると――あっと言う間に時間が経ち、ペーストも完全に乾いたので…三成は家康の足のペーストを丁寧に剥がして いった。

「うわぁ…。」
ペーストを剥がした己の足を見て、家康は目をきょとりとさせ…三成も己の作品の
出来栄えにいい表情を浮かべていた。
「今日は風呂に入らない事を勧める――どうしても入りたかったら、明日の朝に
入れ。」
「ん、分かった。」
脱がされた靴下と靴を履いて帰り支度をする家康に、三成がそう言うと――家康は
コクリと頷いて座っていた寝台から降りた。
「あ、そうだ――お金…」
「…必要ない。」
鞄から財布を取り出した家康に、三成がそう言って制すると――家康は目を見開き…
ワタワタと慌てだした。
「え、だって…!こんなにして貰ったのに…!!」
「なら…」
ワタワタと慌てる家康の手を引っ張って、自分の方へと引き寄せた三成は…その
耳元でこう囁いた。

「――その絵が消えた頃に…もう1度来い。」
「っ…!!」

その声に――恋愛事に耐性の無い家康は顔を真っ赤に染め、フラフラになりながら
店を出たのだった。

End.
Title:『TOY』 /Template:『Spica
執筆中BGM:『Nartic Boy』

オマケ(という名の会話文:やっさんと両親)

「ただいま――。」
「「おかえりー。」」
「遅かったねー何してたの?」
「あ、あぁ――ちょっと、寄り道を…」

「あら?やっちゃん、その足――。」
「(しまった!)えっと、母さん…これはその――」

「あら〜綺麗なメヘンディじゃない!!」
「ん?おお、ホントだ」
「――って、父さん達知ってるのか…これ?」
「ああ――母さんと新婚旅行に行った時にな、旅行先でして貰ったんだ」
「そうそう――あの時に夫婦で御揃いのをしたのよね〜。」
「そ、そうなのか…。」
「で――やっちゃん、それ何処の誰にしてもらったの?」
「え?!えっと、帰りに見つけたお店で…その――」

『――その絵が消えた頃に…もう1度来い。』

「(思い出して真っ赤)――っ!!!」
「あらあら?やっちゃん、もしかして…――」
「なっ!!やっちゃん、一体何処の誰に――ゴフッ!?」
「あなた…やっちゃんも、もう高校生なんですからvv」
「そ、それは…そうだが…!!」
「恋や憧れ位いいじゃないですか――私達は…温かく見守りましょ、ね?」
「は、はい…」
(――かあさん…何か怖い…)

「ね、今度お母さん達にもお店教えて?」
「こ、今度行った時大丈夫か聞いて見る…。」
「お願いねーvv」

「アレでも、腕のいい彫師なんだよなぁ――夫婦揃って…。」

End.