(――あれ…?)
店の前で首を傾げた。

少しずつ手を伸ばして


あれから2週間程が経過し――家康は約束通り、三成の店に来たのだが…どう言う
訳か店の電気が点いていないのだ。
(もしかして…休み、なのかなぁ…?)
そう思った家康だが…店の扉に掛かっている札は『OPEN』となってはいるものの…
以前来た時の様に、絵が外に出ていない為、首を傾げているのである。
(取り敢えず、鍵は開いてるみたいだし…入ってみるかな?)
家康がそっと店の扉を押すと――キィ…と音を立てて扉は開いた。

店の中に入った家康は、三成の姿を探して辺りを見回すが…店は暗く、人の気配を
感じない。
(――困ったなぁ…。)
人の気配が無い事に、家康はしょんぼりとした表情で溜息を吐く――折角来たのに、
このまま帰るのも些か癪である。
(そうだ――あそこなら居るかも。)
ある事に思い当たった家康は、店の最奥に向かう――そして『施術室』と
書かれている部屋の扉を開けた。

(ぅわ?!)
部屋の扉を開けた家康は、目に入った光景に驚いた――何故なら…床には菓子の
空袋やデザインブックが散乱していたからだ。
(あ、居た。)
床に散らばっているそれらを踏まない様に奥に進むと、机に突っ伏して眠っている
三成が其処に居た。
「何だ…寝てたのか。」
眠る三成を見た家康は納得すると共に苦笑する――道理で店も暗く、外に絵も
出ていない筈である。
このまま放って置いても良かったが…流石に店の主がコレではマズイと思い、家康は三成を起こす為…肩を揺さぶった。
「三成――起きてくれ。」
「――ん…?」
肩を揺さぶられた事で目が覚めたのか――三成は寝ぼけ眼で辺りを見回すと、
家康の姿が目に入り驚いた表情を浮かべた。
「な!い、家康?!!い、いつ来た!!」
「え?ついさっき。」
目を白黒させながら叫ぶ三成に、家康がサラッとそう返せば…三成はバツが悪そうな顔で、頭を掻き――そして部屋の惨状を見て頭を抱えた。
「あー…片付るから、少し待て。」
「――手伝おうか…?」
「…頼む。」
手伝いを申し出た家康に三成は短くそう言い――2人は片付けを開始し…そして、
20分程経過した頃――何とか片付けが終了した。
「終わったー!!」
「…悪かったな、手伝わせて。」
一息吐いている家康に、三成がそう言うと…家康は首を横に振りこう言った。
「手伝うと言ったのはワシだし…気にしなくてもいいぞ。」
笑顔と共に言われたその言葉に、年甲斐もなく胸が『きゅん』とした三成は
照れ隠しなのか大声で叫んだ。
「と、兎に角!準備するから少し待て!!」
「はーい。」
そんな三成の心境を知ってか知らずか…家康は三成の様子に首を傾げながらも
ニコッと笑って寝台の上に座る。
(あぁ…貴様は私を羞恥で殺す気か…?!!!)
そんな家康を尻目に三成は顔を真っ赤に染めながらも、手際良く準備を行う――
ある意味器用な男だった。

そして――三成の顔の熱が冷めた所で、漸く準備が終わり…三成は家康の足に
『メヘンディ』を施し始めた。

「なあ、三成――。」
「――何だ?」
「母さんがこの間ワシの足見て『母さんもしたい』って言ってたんだが――
大丈夫だろうか…?」
「…昼間なら何時でも構わん。」
何処か怖ず怖ずとした声で尋ねる家康に、三成が了承の意を伝えると――
安心したのか…家康はふわりと笑顔を浮かべる。
(…かわいいな。)
その家康の笑顔に純粋にそう思う三成だった。

そして――約1時間後、家康の両足には…前回とは違うアラビックな曲線の花と
蝶々が描かれた。

「前と同じ様に――乾くまで待て。」
「うん。」
ペーストが落ちない様に家康の足に保護テープを貼り終えると、三成はそう言って
後片付けを始め…そんな三成の後姿を見詰めていると、家康は『くぅ』と小腹が
空くのを感じた。
(…今日、お昼あんまり食べなかったからなぁ…。)
そんな事を思いながら家康はお腹を擦る――幸いにもお腹の音は三成には
聞こえなかった様で、片付けに集中している。
(そうだ!確か鞄の中に――。)
ある事を思い出した家康は、寝台の傍らに置いてある自分の鞄から小さな袋を
取り出した。
「何だそれは?」
「あ…ちょっとお腹空いたから、学校で作ったスコーンを食べようかなーって…」
片付けが終わり家康の方を見て見ると…何やら小さな袋を鞄から取り出しており、
気になった三成が家康に声を掛けると――家康は悪戯が見つかった子供の様な
顔をしてそう言う…が、三成の視線はその袋に注がれていた。
「えっと…もしかして、欲しいのか?」
「――くれ。」
その視線に気付いた家康がそう言うと、速攻で三成から返事が返ってきたので――
家康が急いで袋を開けると…三成はスコーンを1つ口に入れた。
「…美味い、な。」
「本当か?」
正直に味の感想を言うと、家康の目がキラキラと輝く――そんな家康に三成はまたも胸が『きゅん』としたのを感じた。

そんなこんなで――2人はペーストが乾くまでの時間、のんびりと
会話をするのだった。

「あ、そうだ…お金――。」
「――『必要無い』と言っただろう。」
ペーストを剥がし…帰り支度を終えた家康が鞄から財布を取り出そうとすると、三成は
前回と同じ言葉で素気無く断る。
「でも…!!」
「…私が『いらない』と言っているんだ、気にしなくてもいい。」
慌てる家康に三成がそう言えば、家康は申し訳なさそうに俯く――が、
何か思いついたのか…急に顔を上げ怖ず怖ずとこう言った。

「じゃ、じゃあ…お金の代わりに――ワシが作ったお菓子を持ってくる…と言うのは
どうだろうか…?」

「――の…」
「…の?」
家康の言葉に暫し無言になった三成だったが…意味を理解したのか、俯いて肩を
震わせる――そんな三成を心配して家康が顔を覗き込むと…その手を掴み、
三成はこう言った。

「――乗った!!」

――交渉が見事成立した瞬間だった。

尚、後日――家康と共に店に訪れた家康の両親に、三成は甚く気に入られたと言う。
(理由――母:「真面目で見目もいいからvv」 父:「仕事は丁寧だし…何より『遊び』じゃなさそうだから」との事。)

End.
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執筆中BGM:『西行妖 〜fractures admirablement』