「――徳川が子を孕んだぞ。」
それを聞いた瞬間、三成は凍り付いた。
報告、胸部ど真ン中に被弾
「誰が、孕んだ――だと…?」
「三成よ…現実逃避をしとる場合ではなかろう。」
呆然とした様子で聞き返す三成に、大谷は呆れた様な声色でそう返す――が、
その目は言っていた『主のその耳は飾り物か?』と。
「――いえやすが…?」
「そうよ、もう2月(ふたつき)だそうだ。」
呆然としながらも三成が尋ねると、大谷から返って来た肯定の返事に、三成は
途方も無い絶望感を味わった。
(―――だれだ、だれだ。誰だ!!わたしの、わたしの、いえやすを!!!)
心の中で三成は怒りを滾らせる、その影響で狐耳と銀の尻尾がざわりと逆立つ
――が、その原因が自分にある事を知らないので、見当違いな怒りである。
(やれ――この様子では、気付いておらぬなぁ。)
そんな三成の心を読み取った大谷は、ちょっとしたカマをかける事にした。
「三成よ――そんなに、気になるか?」
「当たり前だろう、刑部!!あれは…家康は、私のモノだ!!」
大谷がそう尋ねると、三成はギッと眦を吊り上げながら声を張り上げた。
「そうか…ならば、教えてやろ」
それを聞いて――大谷は、事の真実を教えてやる事にした――他人の不幸を
至上として生きる大谷だが…流石にこの状態は、ある意味頂けなかった。
「アレが孕んだ子の父は…三成、主ぞ。」
「――は…?」
真実を教えてやると、三成の口から何とも間の抜けた声が零れ落ちた。
「刑部!!私は、嘘は――――。」
「嘘ではない、事実よ。」
声を張り上げる三成に、大谷はそう返す――すると…先程まで怒り心頭だった
三成の雰囲気が、あっと言う間に普段の状態に戻り、畳に座り込んでしまった。
「ほんとうなのか…?」
「そんなに疑うならば、徳川に直接聞くがよかろ。」
呆然とする三成にそう言ってやると、三成は立ち上がり…馬も真っ青な速度(恐惶)で
大谷の部屋を後にした。
「――やれ…三成に徳川、後は主ら次第よ。」
三成を見送った後、大谷は冷めた茶を啜りながら呟くのだった。
「いぃぃえやすぅう――――――――――!!」
「ぅわ!?み、みつなり?!!」
スパーンと襖を開けて入ってきた三成に、家康は驚いて尻尾を膨らませた。
「刑部から聞いたぞ!!」
「――あちゃー…――。」
それを聞いた家康は、思わず天を仰ぎ…それを見た三成は思わず叫んだ。
「貴様、ずっと私に黙っている心算だったのか?!」
「いや、だって…迷惑――。」
何とも寂しそうな顔で吐き出された家康のその言葉に、三成はキレた。
「――ふざけるなぁぁぁぁぁあ!!私がそんな頼り無く見えるか、子供が出来たから
捨てる様な情けない男に見えるのか?!答えろ、家康ぅううう――――――!!!!!」
「え、えええ?」
普段以上におっかない顔をして叫ぶ三成に、家康は戸惑った声を上げる――
そして、そんな家康を畳み掛ける様に三成は、止めの一撃とも言える一言を叫んだ。
「――私と夫婦の契りを結べ!そして、死ぬ時まで私の側に居ろ!!」
「み、みつなり…?」
顔を赤くさせて呆然としている家康に、三成は自分が何を言ったか悟り…家康と
同じように顔を赤くする――が今自分が言った事は、嘘偽りの無い事実である為…
撤回する気は微塵も無かった。
「――こ、こんなワシでいいのか…?」
「…構わん、寧ろ貴様で無ければ困る。」
暫しの間を置いて――恐る恐る尋ねてくる家康に…三成はそう言って、その手を
取り――しっかりと抱き締めた。
ここにこうして――一組の恋人−夫婦−が誕生した。
尚、余談ではあるが――三成のこの告白は、大坂城中に響き渡っており…
聞いてしまった訓練中の一般兵と官兵衛は凍りつき…大谷は大爆笑し…
静養中だった半兵衛は、驚いて飲んでいた薬湯を吹き出し…そして。書類整理中
だった秀吉に至っては――机に頭をぶつけたと言う…。
End.
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