「「――あ。」」
目の前にある顔に2人揃って声を上げた。

玄関開けたらあなたとはちあわせ。


「――貴様は昼の…」
「こ、こんばんは…」
呆然と三成が呟くと、家康はビクビクと挨拶を返すが…それ所ではない三成は、
家康に何故此処に居るのかを尋ねる。
「何故、此処に居る?」
「――ワシの部屋、隣なんだ…。」
今朝引っ越してきたばかりで――と言う家康に、三成は今朝大学に行く途中、何やら
隣が騒がしかった事を思い出す、そうか――コイツが引越ししてきた所為だったのか。
「あの…これ、どうぞ。」
「――?」
今朝の事を回想していた三成に、怖ず怖ずとした様子で家康が袋を差し出して
来たので、三成は一応受け取った――その中身は引越しで御馴染みの
蕎麦であった。
「じゃ、ワシはこれで…」
「ちょっと待て――渡す物がある。」
帰ろうとする家康に三成はそう言い、玄関に置いてある自分のパスケースから
家康の学生証を取り出して、家康に渡した。

「あ!ワシの学生証!?」
「――昼間、落としてたぞ。」
驚いている家康に三成がそう言ってやると、昼の一件の恥ずかしさからか…
家康の顔が真っ赤に染まり――それを見た三成もまた仄かに顔を赤くする。
「す、すまない…」
「――いや…。」
お互いが赤くなっている所為で、何ともむず痒いと言うか気まずいと言うか…そんな
空気が流れたが、そんな空気を破ったのは家康の方だった。
「あ、あの――?」
「な、何だ?」
怖ず怖ずとした様子で声を掛ける家康に釣られてか…三成も些か緊張してしまう――が、家康の口から放たれた言葉は意外なものだった。

「し、下の名前を教えてくれないか…?」
「――え?」
その言葉に一瞬呆けた三成だったが――考えて見ると、この部屋の表札には
苗字しか書いていないし、その上…自分は家康の学生証を見て名前を知って
いるのに、自分が家康に名前を教えないのは些か不公平な気がしたので、
三成は名前を教える事にした。
「みつなり――石田、三成…だ。」
「――みつなり…」
名を教えてやれば…家康はまるで童の様に口の中で名を転がす――そんな家康を
見て、三成は自分の心臓が跳ね上がるのを感じた。
そんな三成に気付く事なく、家康は先程の怖ず怖ずとした様子から一変した、
柔らかな声色でこう言った。

「これからよろしくな――みつなり。」

その言葉に――三成は分厚いレンズの向こうに、キラキラと輝いた瞳が見えた気が
して、再び顔を赤くしたのだった。

End.
Title:『Fortune Fate』/Template:『Spica
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