DARK HALF~TOUCH YOUR DARKNESS~
多情とも言える切なさは、俺を呑み込んでいく。
「真紅。」
昼休み――健太は果林に声を掛けた。
「あ、雨水君。」
掛けられた声に、果林は健太の方へ振り向いた。
「昼飯、いいか?」
果林から貰った弁当を指差しながら、健太は尋ねた。
「え?うん、良いよ。」
果林はそう答えて自らの弁当を持ち、健太の方へ向かった。
「「――いただきます。」」
屋上に移動した―教室では、クラスメートに揶揄されるので―2人は、そう言って弁当を食べ始めた。
「なぁ、真紅。」
健太は箸を止め、果林に話し掛けた。
「えっと、何?」
果林も箸を止め…首を傾げながら、健太の顔を見る。
そんな果林を見て、健太は一瞬だけ『ドキッ』とした。
最近―と言うより、自分を噛んでから―果林は、少し変わった気がする。
「あ、いや…今日は顔色が良いから、もしかして…。」
そんな事を考えながら、健太は果林に尋ねた。
「う、うん…きゅ、急に、来ちゃって…。」
その問い掛けに果林は、顔を紅潮させながら答えた。
その言葉を聞いて健太は、果林に気付かれない様に溜息を吐いた。
『俺は噛んでも良いって、言ってるじゃないか…。』
それを思ってか健太は、頭を抱えた。
頭を抱えた健太を見て、果林は気まずい表情を浮かべた。
「ご、ゴメンなさい…やっぱり、恥ずかしいのもあったから…。」
「い、いや!真紅を困らせる気は、無かったんだ。」
困った声で謝った果林に、健太は果林の言葉に顔を紅潮させながらも――慌ててそう言った。
そんなこんな言っている間に、2人は昼食を終えた。
「なあ、真紅。」
弁当も片付けて世間話をしていると、唐突に健太が話し掛けた。
「何?」
唐突に話し掛けられた果林は、首を傾げた。
「やっぱり、俺に噛みつくのは恥ずかしいのか?」
果林を見ながら、健太は、真面目な声でそう尋ねた。
「―――――――…え…?」
その言葉に果林は、顔を赤くして硬直した。
それを見た健太は『しまった!』とは思ったが、取り敢えず答えだけは、聞いておきたかった。
「―――…う、うん…。」
暫くして正気に戻ったのか、果林は顔を真っ赤にしたまま俯いて答えた。
それを見た健太も、反射的に顔を赤くし…俯いてしまった。
「…結構、俺としては…辛いんだけど…。」
健太は顔を赤くしたまま、ポツリとそう呟いた。
「え…あ、そっか…。」
その言葉に果林は、一瞬だけ疑問符を浮かべたが…直ぐに思い当たる事があった。
果林が健太を噛まない理由は、基本的には『抱き付くのが恥ずかしい』からである。
しかし…――その理由は、健太にとっては切ないものだった。
「うぅ…でも、ホントに恥ずかしいんだもん…。」
やっと顔を上げた果林は、視線を彷徨わせながら…健太にそう答えた。
「そう悲観的に考えなくても…また、抱き寄せれば、良いだろ?」
健太はそう言いながら、果林を抱き寄せた。
「――――――っ!??!」
抱き寄せられた果林は、顔を思いっ切り紅潮させながら、声にならない声を上げた。
「う、雨水君!?!??」
顔を真っ赤にしたまま果林は、混乱しきった状態で…健太に声を掛けた。
「ちょ、ちょっとは…慣れて、おいた方が…。」
抱き寄せた健太も、恥ずかしかったらしく…声が上擦っていた。
そうこうしている内に、昼休み終了のチャイムが鳴り響いたので、2人は教室に戻った。
下校時――果林は健太と共に、バイト先に向かっていた。
「ね、ねぇ…雨水君…。」
「な、何だ…?」
昼の余韻が残っているのか…2人共、言葉に詰まりながら――互いに声を掛けた。
「な、何で、あんな事…したの…?」
思いだすのも恥ずかしいのか――果林は顔を赤くしながら、そう言った。
「そ、それは…!」
昼休みの事を聞かれ…思わず、健太は慌てた声を上げた。
「あ、焦ったんだよ…真紅、お、俺に、噛み付かないから…!」
そう言って健太は、顔を思いっ切り紅潮させた。
「…えぇー?!!?」
健太の思わぬ答えに、果林は顔を赤くし、思わず大声を上げてしまった。
「待ってるこっちは、結構、切なかったんだぞ…。」
「……ゴメンなさい……。」
2人は互いに俯きながら、そう答えた。
この後――2人は微妙な雰囲気で、ジュリアンに向かったが…果林が仕事に集中できなかったのは…言うまでもない。
多情とも言える切なさは、俺を呑み込んでいく。
切ない波に呑み込まれるから…無謀でも妥協でもなく、翼の君に触れたいと思うよ。
BACK