またの名を小悪魔と自制心?



――何て、甘い。

様々な要因が重なって、周囲の面々は何を思ったのか――。
「…暫くよろしく…。」
何故――今現在に限って、彼と2人きりにさせる!!

原因は――詮無い事であった。
GGGの主な面々が、どう言う訳か――全員、個人的な用件で出掛けてしまったのだ。
それで、自分に留守番と彼の面倒見が入ってしまった。

「――…。」
私の口からは、思い掛けずに溜息が零れる。
「どうしたんだ?」
溜息が聞こえたのか…食事をしていた彼は、首を傾げて尋ねてくる。
「いや…何でもない。」
「?」
私がそう答えれば、彼は怪訝な顔で再び首を傾げたが…直ぐに食事に集中し始めた。

――只…彼とこうしているのは、別に嫌いではない。

そんな事を考えながら、ふと…目線をある方向に向けた、その瞬間…私の表情は凍り付いた。
「ちょっと待て、凱。」
「?何だ?」
『それ』を見て、思わず食事中の彼に待ったを掛ければ…実に不思議そうに、こちらを見る。
「…何処まで、食う気だ…?」
微かに震えた声で、そう問い掛ける。――そう…先程から彼が食べている量が、尋常―私から見れば―ではなかったのだ。
「…もうちょっと…?」
彼の口から発せられた答えは――そんな言葉だった。
「――幾ら何でも、食い過ぎだ!!」
「っ…し、仕方ないだろ!?こっちの身体になってから、妙に腹減るんだぞ!?」
怒鳴る私に、彼は無意識に身を竦ませながら言い返してくるが…全く以て、説得力がない。
「…これで食べ終わるから、ダメか…?」
「う゛…。」
そんな声と上目遣いで言われてしまい、うっかり閉口した。
「…分かった。」
呟く様に言ったら、彼は笑顔を浮かべ、再び食事を始めた。
『――とことん、甘いな…。』
内心で、そう呟き…私は深い溜息を吐く。

――無意識にしても、あれ程…強烈な誘惑は…。

私は沸き上がってきた衝動を、何とか誤魔化し…彼の食事が終わるまで、待つ事にした。
『――自制心が強くて良かった…っ。』
内心で――私が何て事を思っていたのは、言うまでもなく。

部屋に戻って暫くしたら、眠ってしまった彼に、私はらしくもなく…項垂れた。
「…何故、ここで寝る…っ。」
最早、眠ってしまった彼を起こす気力もなく…只項垂れる。
自分の側で、無防備に眠る彼に…甘い、衝動が、沸き上がる。

「…この位はせんと、割に合わん。」
――散々振り回されたのだから、この位の報酬を貰わないと…。

そう思いながら…私は眠っている彼に、深く口付けた。
「ん…?ん――――――!??!」
息苦しくなって目が覚めたのか…彼は目を見開き…私の胸元を叩いてきた。
「…起きたか。」
それを見て、彼を解放して簡潔にそう言えば――。
「当たり前だっ!!」
目を覚ました彼は、顔を真っ赤に染め上げ…半ば叫ぶ様に返してきた。
「…一つ良い事を教えといてやろう、凱。」
「…何だよ?」
怪訝そうな声を上げる彼に、最後の一押しとも言える言葉を放つ。

「――その無防備さは、『今』の私にとっては…最大の誘惑だぞ?」
「はい!!?」
叫ぶ彼をやんわりと押さえ付け、その肩口に顔を埋める。
「え、ちょ…待!」
「今更、遅い。」
漸く意図が分かり暴れる彼に、私はそう言って…彼の首元に舌を這わす。

――後は、溶けそうな程の時間が過ぎるだけだった。

「――酷い…。」
「…人を犯罪者みたいに言うな。」
そんな事を言う彼に、私はそう返す――と言うか、誤解を招く言い方をするな。
「『イヤだ』っつったのに…。」
「ほぅ――…最後に強請ってきたのは、何処の誰だ?」
「〜〜〜〜っ!!」
小声で文句を言っている彼に、皮肉を込めて言ってやると、一気に顔が赤く染まった。
「くく…。」
赤く染まった顔で睨んでくる彼を見て、思わず笑いがこみ上げてくる。
「笑うなぁぁぁーーーーーーー!!」
私の笑い声が聞こえたのか…彼は叫びながら、私に殴り掛かってくる。
 
――それを甘んじて受けながら、私は後で彼の機嫌を直すかを考えていた。

――元の身体に戻るまで、後、2日。








オマケ。

「上手くいってるかしらね?2人とも。」
優雅にお茶をしながら、のほほんと微笑みながら命はそう呟く。
「まぁ…見ていてアレなのは分かってるし――…で、聞きたいんだけど。」
同じ様にお茶に付き合っていた、ルネは命に向き直る。
「何?ルネ。」
「アンタの手許にある、『ソレ』…何だい?」
疑問の声を上げる命に対して、ルネは…その手許にあるメモ帳を指差しながら尋ねる。
「これ?ネタ帳よ。」
「――――――――。」
あっけらかんと答える命に、ルネは思わず言葉を失った。

『J、凱――アンタ達…絶ッ対に、遊ばれてるよ…。』
――内心で、彼女が思わず呟いた言葉は…的確に的を捉えていた。

何て会話が繰り広げられていた事など―――2人が知る由もない。