恋し君と過ごす新年

 

新年が明けて。豊臣に組しての初めての正月。
ワシは新年の挨拶をするべく大阪城へ登城していた。
秀吉公の計らいで、いつもは略式の服装でも許される気楽な城である大阪城も、
今日ばかりは城を訪れる全員が考えうる限りの一張羅と裃を身につけて太閤殿下の前に
頭を垂れた。
もちろん、ワシだって誂えたばかりの金糸の飾りがある着物を着てやってきたのだ。意外と
派手好みの秀吉公がワシの着物を褒めてくださり、ワシは大層ご機嫌 だった。
秀吉公のごく近くに控えている三成に得意げに視線を遣れば、ワシが秀吉公に褒められたのが気に食わないのか、苦虫を噛み潰したような顔でこちらを睨んでい た。
ありゃりゃ、こりゃ、後で機嫌を取るのが面倒そうだ。
ワシは心中で肩を竦めながら、秀吉公に深々と頭を下げて新年の挨拶を終わらせた。

謁見の後、久々に会う諸国の大名達と立ち話をしていると、目の前の廊下を三成が歩いていくのが目に入った。
ワシの周囲にいた者達は「治部少殿だ」と眉を顰めて係わり合いになるのを避け声を潜めるが、ワシは嬉々として三成の元へ歩み寄った。
三成は先ほど座敷で着ていた裃を脱ぎ狩装束姿でどこかへ向かっていた。

「三成!どこへ行くんだ?」

愛想よく笑みを浮かべながら肩を叩くと、三成は機嫌悪そうに眉を顰めてこちらを
振り向いた。

「貴様には関係ない。挨拶が済んだのならさっさと自国へ帰れ。」

「また、そんなことを言う。今度、正月に来たら、後でお前の屋敷に寄れと言ったのは
お前だろう?」

前回、大阪城を訪れた際あっさりとお持ち帰りされたワシは三成の屋敷の褥の上でそう
言われたのだ。随分勝手な言い分にワシは大いに反抗したいところであっ たが、あいにく動けなくなるほど睦みあったせいか体がぴくりとも動かせなかった。恨み言の一つでも言ってやろうと口を開けば、三成が頭を撫でながら「すま なかった。」と謝ったのが忘れられない。あの時は随分三成が優しくて本当にびっくりした。
まあ、久しぶりだったものなあ。その前は喧嘩別れだったし。

「・・・新年の宴で・・・流鏑馬を披露することになっているのだ。準備は万全だが、稽古を怠ると腕が鈍る。」

俯き加減で三成はそう言って、再びワシを置いてさっさと歩いていってしまう。ワシは慌てて
その後を追いかけた。

「稽古に行くのか?なあ、ワシも見ててもいいか?」

「フン・・・好きにしろ。」

三成の許可が下りたので、ワシは遠慮なく三成の後に着いて行くことにした。


大阪城の上屋敷の一角にある道場は、正月ということもあり人の気配は他になく冬の
ぴりりとした寒さだけが道場の隅々まで行き渡っていた。
三成は慣れた様子で弓の準備をすると、的を配置する。まるで、ワシなどいないかのように
振舞っているが、練習の邪魔をしたいわけではないので、ワシは黙っ て三成の様子が良く
見える所に座っていた。
そういえば、三成が弓を引く所など初めて見るような気がする。
いつもは鋭い剣を美しく振るう三成だが、弓を引き絞る姿も中々良い。

こうして見るとやはり三成は美男であった。ただ美しいだけの男なら山ほどいるが、その所作
までも見ていて飽きない男は大阪城内を見回しても三成の他に並ぶ ものはないだろう。
加えて、三成の内面の美しさにワシは心惹かれてどうしようもないのだ。
豊臣の世になり、乱世はとりあえずなりを顰めたが、今だ大名共の内面に渦巻く思惑は計りしれず、常に相手を疑ってかかるくらいでなければすぐに寝首をかか れるだろう。
三成はその只中であってさえ、常に嘘がなく真っ直ぐに秀吉公への忠義のみで動いている。
様々なしがらみで縛られたワシにとっては、その生き方は憧れであり、いつか目指す世の中の縮図であった。
誰もが自分の思う通りに生きられる世の中を・・・ワシは三成を見る度にそんな自分の理想を思い返し胸に抱き続けることができるのだ。

ピシリ。

矢がまた鋭く中央を射抜く。

次々と的に命中する矢に感嘆のため息を漏らしていると、三成がこちらを振り向いた。
しまった、煩くしすぎただろうか。

「すまん、三成。静かに見てるから・・・。」

「貴様もやってみるか?」

そう言って三成は自分が持つ弓をこちらに差し出した。
正直、ワシは弓術だってある程度のたしなみがある。挑むようにそう言われ、ワシの競争心に一気に火がついた。
「いいのか?」と言いながら既に立ち上がり裃の上衣を脱ぐワシに三成は薄く笑いながらこくりと頷く。
ワシは喜び勇んで三成から弓を受け取ると、かっちりと着こんで邪魔な着物の片肌を脱ぐ。その様子に三成が僅かに動揺したことをワシは気付かなかった。

弓を引く時の研ぎ澄まされた緊張感がワシは好きだ。
全ての意識を矢の先へ集中させ、ただ一点を目掛けて弓を引き絞る。三成の矢はどれも
的の中心を見事に射ている。ワシも負けてはいられない。
静寂の只中を矢が飛ぶ音だけが響き的を打つ音が鳴り響く。矢は、三成の矢とほぼ
代わらぬど真ん中を打ち抜き、ワシをいたく満足させた。

「ほら!見てみろ、三成。ワシも中々やるもんだろ・・・?」

喜び勇んで三成を振り返れば、思いのほか近くに三成がいて驚いて後ずさる。

「ほう、中々やるではないか。どうだ?貴様も共に秀吉様の前でその腕前披露するか?」

「いやいや!ワシなんか秀吉公にお見せできるほどの腕では・・って三成!近い!近い!」

何故かじりじりと間合いを詰める三成を押し止めながら後ろに下がるが、すぐに道場の壁に突き当たり追い詰められる。三成が獲物を前にした動物のように唇を 舐めるのを見てぞっと背筋を凍らせる。

「新しい着物か?よく似合っているな、家康。だが少し目を引きすぎる。」

三成はそう言うと肌蹴た方のワシの肩に手を伸ばしするりと撫でた。冬場の冷気で冷えた
三成の指先が冷たくてびくりと体を震わせる。

「え・・と・・・三成?まさか、道場で変な事したりはしないよなあ?」

いかに正月で道場に人気がないと言っても、初稽古だと言って人がなだれ込んできても
なんらおかしくない状況だ。
この状態で三成に盛られては非常にまずいことになる。

「変なこと?こういうことか?」

三成はにやりと笑むと肩を撫でていた手をすうっと下ろしてワシの胸を撫でる。冷たい指の
腹で胸の頂を撫でられて、思わず声が漏れる。

「ふあっ・・・っちょ・・・やめろって三成・・。」

胸をまさぐる三成の手を引き剥がそうとするが、こんな時に限って三成はやたら力が強い、
逆に抵抗した分だけ激しく愛撫されワシは指先から力が抜けていくの を感じた。
三成に刺激された胸の突起は久々の愛撫に嬉々として反応をしめし、固く形をなして
ふるふると震えている。三成はその様子を愉快そうに眺めていたが、気が変 わったのか
今度はワシの首筋に噛み付いてきた。

「んんっ・・・いたっ・・・やめろ、みつな・・あっ。」

興奮しきった三成の吐息が耳にかかってワシもだんだんと変な気分になってくる。ダメだと
分かっているのにその手が振り解けないのは、既にワシもその気だと いう事なのか・・・。
あ・・・三成・・・そこ、気持ちいい・・。
既にもう一方の肩もあらわにされてワシは三成のいいように体を弄られていた。袴の脇から
手を差し込まれし下着の上から股間を揉まれてワシは快感にがくがく と足を奮わせる。

「だ、ダメだって・・・誰かきたら・・・んんっ・・・!」

「何がダメだと?お前のここは触って欲しそうに震えてるぞ?誘っているのはむしろ
貴様の方だ。」

下着の間に指を差し込まれ直接握りこまれれば、ぐちゅりと濡れた音が響いて羞恥に
顔を染める。駄目だ・・・ワシ・・・準備万端すぎる・・。
壁を背に体を支えていた膝が次第に崩れてワシは床にへたり込む。息も荒く足を開いて座る
ワシの姿に、三成も満足したのか今年初めての優しい笑顔でワシの頭 を撫でた。

「知ってるか、家康。こういうのを姫初めと言うのだ。屋敷に戻ってからでは遅い、
今済ませることにする。」

「・・・おい、誰に聞いた。」

「もちろん、刑部だ。」

真顔で言い放つ三成に、ワシはがくりと肩を落とす。全く・・・余計な知識ばかり三成に
吹き込みおって・・・刑部め・・!・・・っていうか、全然遅くない ぞ!?その辺の所をもっと
しっかり教えてやって欲しい。
しかし、三成があんまり嬉しそうな顔をするので、ワシもついついほだされてしまう。
そう言う顔をもっと他の者の前ですれば、きっと三成の事を皆も気に入るはずなのに。いや、
それでは、ワシに都合が悪いか。
ごく少ない者しか知らぬこの表情を独り占めできるから三成はたまらないのだ。
例え普段が煩くても。しつこく追い回されても、こうやって体を・・・・あぁ・・・もう・・三成・・・
好きだぞ。

「家康こっちを向け。余所見は許さない。貴様は私だけを見ていればいい。」
「わかってる。お前しか見えないよ、三成。」

優しく口付けられて思わずワシも笑みを零す。全く、三成には叶わない。今日は正月、
無礼講と行こうか。
冷たい外気に下肢がさらされてワシは請うように三成に押し当てた。答えるように口付けを
落とされて、ワシは今年最初の三成との接吻にうっとりと目を閉じる のであった。

「秀吉!寒稽古なんて珍しいね!」
「うむ、半兵衛。我も少々飲みすぎたか。」
「大丈夫だよ、少し体を動かせば酔いも醒めるさ。」
「そうか、三成が先に行っているらしいな。」
「そうそう、弓の稽古だって。真面目だよね、あの子は。」
「それも半兵衛の指導の賜物よ。我も久々に弓を射てみたくなったわ。」
「ほんと?わあ、嬉しいな!久々に秀吉の弓術が見れるんだねえ!」
「はっはっは・・・久方ぶりなのだ、そう期待されては困る。」
「あ、ほら。道場見えてきたよ・・!楽しみだねえ、秀吉っ。」
「フフ・・・はしゃぐな半兵衛。」

そうして、道場の扉は太閤の手でゆっくりと開かれたのであった。


あまねさんから頂きました、10000hit記念フリリク作品です。
フリリクの最後の申請は私だったそうです、私自身『最後の方にリクしたかな…?』と思っていましたが
本当に最後だとは思いませんでした…。
素敵な▽▲作品、ありがとうございました!!