第1話



此処は、武者の国、天宮(アーク)。
そして、その天宮(アーク)を象徴する城、烈帝城で信じられない事件が発生してしまうとは、
誰もが予想さえしなかった・・・・・・。
 
「ふぁあ〜〜・・・・・・。」
大きく欠伸をしている武者、『新世大将軍』の『次男』でもある、『號斗丸(ゴッドマル)』である。
「流石に、昨夜は書物を読みすぎたな・・・・・・;。」
そう。彼は、昨夜大好きな異国書物を読み耽ってしまった為に、寝不足である・・・・・・。
「さてと。そろそろ、着替えて顔を出さないと、父上と兄上に怒られるな・・・・・・。」
そう呟いて。彼は着替えの為、洗面所に足を向けた。
だが…彼はこの後――世にも恐ろしい現実に直面する事になるとは、本人も知らない・・・・・・。
 
 
そして、洗面所。此処に来るまでに、號斗丸は自分の身体に違和感を感じていた。
最初に感じた異変は、声である。妙に甲高く、明らかに何時もの自分の声ではなかった。
2つ目に感じた異変は、身体の妙な倦怠感である。幾ら徹夜したからと言っても、これほど怠くなる事は、
今まで無かったのだ。
「妙に身体が気怠いけど、構わないか。」
仕事を休んでしまったら、父親や兄達に多大な負担を掛けてしまう事を、自分は知っていたから。
そして。寝間着から普段の格好に着替える為に、寝間着を脱いだ自分の身体を見て、愕然とした・・・。
 
 
「――――どーゆー事ですか・・・・・・?」
 
 
やっとの事で、発した第一声がこれである・・・・・・。
だが。もしも、今の彼の立場なら、こう言ってしまうのは、無理もなかった・・・・・・。
そう。彼の身体は、『男の身体』から『女の身体』になっていたのだ・・・・・・。
 
 
とっぷり固まってから、彼が我に返ったのは、約5分も経ってからだった・・・・・・。
 
 
只今の彼の心理状況・・・・・・。
 
 
『これは夢だ!!夢に決まっているよな?!』
 
 
號斗丸は、そう自分に言い聞かせながら、恐る恐る胸を触ってみる。
悲しい事に・・・。それは柔らかかった。自分の胸だと改めて実感させられてしまった。
そして・・・・・・。自分の大事な場所に、触れてみた・・・・・・。
その場所は、ペッタンコであった・・・・・・。
この事実を改めて認識させられてしまった、號斗丸は、身体全体から完全に血の気が引いていた・・・・・・。
 
 
そして、約30分経過・・・・・・。
 
 
「ウソだろーーーーーーー!!!!」
 
 
静かな朝を迎えていた烈帝城に、悲痛な號斗丸の声が城中に響き渡った・・・・・・。
そして、この声に真っ先に反応した人物が2人居た。
「今の声は、號斗丸か?!」
「な、何だぁ!?一体!!」
そう。父親である、『新世大将軍』と、兄の『飛駆鳥(ビクトリー)』である。
父親の新世大将軍は、将軍の間から。そして。兄の飛駆鳥は、珍しく眠っていた為、
弟の悲痛な声で完全に目を覚め、自室から、弟の部屋へ全速力で向かった。(勿論、寝間着のままだ。)
それは、父親である新世大将軍も同じで、自分の宝物である息子の悲痛な声が聞こえたのだ。
飛駆鳥と同じく、全速力で號斗丸の部屋へ駆けだした。(この際、仕事は二の次である。)
 
 
そして、その頃。声の張本人はと言うと・・・・・・。
 
 
「ほえ〜〜・・・・・・。どうしよう・・・・・・。」
と、洗面所で泣きながら蹲っていた・・・・・・。
本気で「どうしよう」と、考えていた時、聞き慣れた声が襖の向こうから聞こえてきた。
しかし、その声は、今現在、尤も聞きたくない声であった。
『おーい!!號斗丸!!一体何があっんだ?!』
『どうしたんだ!?ここを開けてくれ〜〜!!』
この声は明らかに、父親の新世大将軍と、兄の飛駆鳥だ。
 
この声で、完全に我に返った號斗丸は、この思いだけが頭を過ぎった。
 
『今の、この姿を父と兄に晒すわけにはいけない・・・・・・。』
 
そう考えた彼は、自分の手頃な着替えを数点持ち出し、そして、何時もの鎧に着替えて、
そっと烈帝城の自室の窓からから抜け出した・・・・・・。
號斗丸が目指すは、『恵亜須(エアーズ)の街』と言う、天宮(アーク)最大の港町。
 
『恵亜須(エアーズ)には、幼い頃から世話になっている人物が居る。その人に、匿ってもらうしかない!!』
 
と、號斗丸は考えたのだ。
こうして。號斗丸の人生最大の逃亡劇は、幕を開けたのだ・・・・・・。
 
そして、新世大将軍と飛駆鳥は、部屋からの応答が全く無い為…2人揃って襖をぶち破って部屋に乗り込んだ。
そこで初めて2人共、號斗丸の姿が無いことに気が付き、號斗丸の姿を部屋の隅々まで捜したが、大切な息子(弟)が
完全に部屋から姿を消していた。
この今までに無かった緊急事態に、新世大将軍と飛駆鳥は将頑駄無(大将軍の右腕)である、
『轟天頑駄無』と相談する羽目になってしまった。
無論。この事が、新世大将軍と飛駆鳥の新たなる頭痛の種になったのは言うまでもない・・・・・・。