第5話
號斗丸(ゴッドマル)たち3人が、荒鬼の家に転がり込んで4日が経過した。
幸いな事に未だ捜索隊の手は、この『於雄得山(オオエヤマ)』には及んではいない。
そして、何時も通りの朝が来た。
「おはよう。」
「ああ、おはようさん。荒鬼」
「おはようございます、荒鬼殿。」
只今の居候である、爆流たちから挨拶が返ってくる。
ふと、荒鬼は違和感に気が付いた。
「あれ?號斗丸の姿が、見えないが・・・・・・。」
荒鬼は、爆流に聞いた。
「ああ。舞威丸(ブイマル)やったら、まだ、夢ん中や。」
「朝帰りでしたからね・・・。」
と苦笑しながら、爆流たちは答える。
もう、お解りであろう。號斗丸は仕事が忙しくなってしまい、朝帰りになってしまったのだ・・・・・・。
「朝帰りとは言えども、もう起きなきゃ、ヤバイぞ。」
荒鬼は呆れたように言う。
「いやな〜〜;;おれらかて、必死で起こしに行ったけどな・・・・・・。」
爆流は困ったような顔をして、荒鬼に答えた。
「起きなかったんですよ・・・。」
最早、悲壮感が顔に出ている鋼丸。
そんな2人を見て、荒鬼は溜め息を吐いた。
「はぁ〜〜。何なら、おれが起こしてくる。」
荒鬼は面倒なのか、ゆっくりとした動作で立ち上がった。
そして、荒鬼は號斗丸の姿がある、自分の家にある1番奥の部屋に行った。
しかし・・・。この行動が自分の理性が保てるか保たないかを、試される事になろうとは、
本人は未だ知らない・・・・・・。
荒鬼の姿は號斗丸の居る部屋の前にあった。しかし顔は明らかに怒っている。
理由は…部屋に足を運ぼうとして土間を出た時、爆流たちがこう言った為である・・・・・・。
『頑張って理性保つ事やな〜〜。』
『すいませんが、頑張ってきて下さい。荒鬼殿・・・。』
「まだ、鋼丸の方は解るとして、爆流のあの言い方は何だ!!!」
只今の荒鬼の心境は・・・・・・。
『まるで、おれが欲求不満みたいじゃないか!!』
と、この様な心境であった。
取り敢えず――爆流に文句を言うのは後にして、荒鬼は號斗丸を起こすべく、部屋に入っていった。
その頃、土間では・・・・・・。
「なぁ、鋼丸。荒鬼の理性、保つと思うか?」
「ギリギリだと、思いますけど・・・・・・。」
「そう願いますかねぇ〜〜。」
「そうですね・・・。そう願いましょう・・・・・・。」
この様な会話が繰り広げられていた・・・・・・。
荒鬼が部屋に入った時、號斗丸の姿は布団の中にあった。
「お〜い、號斗丸。いい加減に起きろ〜〜。」
と、荒鬼は呼び掛けるが、號斗丸は起きない。
「はぁ〜〜;;完璧に熟睡してるよ・・・・・・。」
ふと、荒鬼は號斗丸の顔を見て『ドキッ』とした。
女性特有の、細くて柔らかい顔のライン。
気持ち好さそうに閉じられた瞼に、長い睫毛。
頬や項に掛かっている髪の毛。
そして、薄い口唇・・・・・・。
そんな無防備な號斗丸の寝顔を見て、荒鬼は身体が熱くなった。
「な、何で、こんなに綺麗なんだ?!」
小声だが、明らかに狼狽えた声を出した。
「ど、どうしよう・・・・・・。」
だが、そんな心とは裏腹に、荒鬼の手は號斗丸の寝顔にそっと手を伸ばしていた。
そっと頬を撫でてみる・・・。柔らかくて、心地が良い・・・・・・。
口唇も、ゆっくりとラインに沿って辿っていく・・・・・・。
今までに抱いたどんな女よりも柔らかく、そして甘く感じた。
『このままでは、ちょっとヤバイかも・・・・・・。』
荒鬼の理性は、最早ブチ切れ寸前の状態であった。
「う〜〜ん・・・・・・。」
そんな時、號斗丸が微かに身を捩った。
荒鬼は、慌てて手を引っ込めたが、號斗丸はまだ起きる様子は無い。
「少しなら、いいよな・・・・・・。」
そう呟いて、荒鬼は自分の顔を、そっと號斗丸の寝顔に近づけた・・・・・・。
と、その時・・・・・・。
「う〜〜ん。」
タイミング良く、號斗丸が目を覚ました。
その為、荒鬼は後退った。
「あれぇ〜〜?荒鬼、おはよう〜〜。」
起きて直ぐに、荒鬼の姿を見つけた號斗丸は朝の挨拶をした。
「あ、ああ。おはよう。」
何とか平静を装いながら、荒鬼は號斗丸に挨拶を返す。
「それじゃ、おれ。服、着替えてくるから。」
號斗丸はそう言い残し、風呂場に向かった。
因みに。荒鬼は、號斗丸の姿が完全に風呂場に向かった事を確認してから、爆流たちが居る土間に
ダッシュで向かった。
『ドタドタ!!!!』
家中に響き渡る騒音で、爆流と鋼丸は何が起こったのか直ぐに想像が付いた・・・・・・。
「爆流ーーーーーーーーーー!!!!!」
荒鬼が息を切らせながら、土間に入ってきた・・・・・・。
「あれ?荒鬼。どないしたんや?」
知っているのに、ワザと戯けた口調で答える爆流。
「どーしたも、こーしたもないわ!!爆流、おまえ知っていたんじゃないのか?!!」
ヒステリックになって叫ぶ荒鬼。
この事で、爆流たちは確信した・・・・・・。
「荒鬼・・・。おまえ、もしかして・・・・・・。」
「まさかとは、思いますけど・・・・・・。」
『理性、切れそうになったんか?(ですか?)』
2人共、声を揃えて言った。流石は師弟関係にある2人。
それに対して、荒鬼は・・・・・・。
「ああ、そうだよ!!危うく、ホントにブチ切れる所だったんだぞ!!」
否定するどころか、完全に認めている・・・・・・。
「まあまあ。ちょっとは、落ち着きや。」
「そうです。師匠の言う通りです。少し、落ち着きましょう」
2人揃って、荒鬼を宥めた結果…何とか落ち着いた為、話し合いに持ち込まれた。
「しかし・・・。おまえも、理性吹っ飛ぶ寸前まで行くとは、思わんかったで・・・・・・。」
「師匠と、同意見です・・・・・・。」
と、2人は『恵亜須の街(エアーズのまち)』の自宅での事を思い出しながら言う。
爆流たちの話から、荒鬼はある結論へ辿り着く・・・・・・。
「もしかして、爆流・・・・・・。おまえたちもか?」
と、荒鬼は爆流たちに問いかける。すると・・・・・・。
「鋼丸は、気絶してもうたから、別として・・・・・・。」
「師匠〜〜;;それは、あんまりです〜〜;;」
2人共、理性が吹っ飛びそうになったのは認めている。
そんな、2人の様子を見て・・・・・・。
「そ、そうか・・・・・・。」
荒鬼は乾いた笑みを発しながら、2人に言った。
丁度その時、號斗丸が着替え終わったのか、土間の方へ顔を出した。
「あれ?みんな、何か話してたみたいだけど・・・・・・。」
『な、何でもない・・・・・・。』
號斗丸がさっきの会話について聞いてきた為、爆流たちは笑って誤魔化した・・・・・・。
「そう言えば・・・。これから、どうするの?」
と、號斗丸が今後の事について、聞いてきた。
「そうやなぁ〜〜。もう流石に、気が付いとるやろ。」
「そうですね、どうします?荒鬼殿・・・。」
「頼むから、おれに話題を振るな・・・・・・。」
「どうしよ・・・・・・。」
『はぁ〜〜〜〜;;』
揃って、憂いを帯びた溜め息を吐く武者が4人・・・・・・。
「こうなったら、他の超将軍を巻き込む迄だ。」
いきなり、荒鬼が物騒な発言をした。
「はぁ?!ちょ、ちょっと待って下さい!他の超将軍を巻き込むって?!」
鋼丸は師匠と似たような発言をする、荒鬼に慌てて説明を求めた。
「なーる程。それやったら、お互い様になるなぁ〜〜。」
爆流は、荒鬼の意図が解ったのかうっすらと笑みを浮かべた。
「はぁ?どういう意味なんですか?師匠。」
鋼丸は爆流と荒鬼の考えている事が、解らない為2人に問う。
爆流たちは不思議そうな顔をしている、號斗丸に背を向けて説明した。
「簡単な事や、鋼丸。今度の事で、荒鬼も巻き込まれとんや。」
爆流は、簡潔に説明する。
「そして、他の超将軍を巻き込んでしまえば、お互い様。このゲームは、互角(イーブン)になる・・・。」
と、荒鬼が勝負に挑む武者の顔で説明する。
「成る程。確かに、お互い様になりますね・・・・・・。」
苦笑しながら、解った様に答える鋼丸。
そして、3人は號斗丸の方へと顔を向けた・・・・・・。
「舞威丸。まだ暫くは、この『於雄得山』に滞在するで。」
「それが、一番だな。」
「そうですね。迂闊に動いたら、見付かる可能性が高いですし・・・・・・。」
と、3人は未だに不思議そうな顔をしている號斗丸に言った。
「うん。構わないよ、おれは・・・・・・。」
號斗丸は、アッサリと爆流たちの提案を受け入れた。
どうやら、この逃走劇・・・・・・。まだまだ、終わりを知らない様です・・・・・・。
そして、約2時間後・・・・・・。
『於雄得山』から、5羽の伝書鳩が飛び立った・・・・・・。
それぞれに、協力を求める意志を書いた手紙が・・・。
この逃走劇が、ますます、ヒート・アップするのは言うまでもありません・・・・・・。
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