俺以外見るな。



この時だけは…。

空を翔る烏を見る度に、焦燥感が募る。
「クソっ!」
俺は舌打ちして、空を翔る烏を見上げる。
いっその事…『縛り付けてしまおうか』と思うが…それをしてしまえば、烏は、烏で無くなってしまう。
空を自由に翔けてこその烏だ。――『空』を奪う事は、出来ない。
暫く空を見上げていると、漸く烏が戻ってきた。

「咢、どうかしたのか?」
不機嫌な俺に気付いたのか…烏が、そう尋ねてくる。
「…………。」
烏の問い掛けには答えず、烏の体を抱き寄せた。
「ぅわ?!」
烏の驚いた声が聞こえるが…それに構わず、きつく抱き寄せる。
「ちょ、咢…痛いんですけど…?」
「――るな。」
戸惑う烏に、俺は耳元で言う。

「――見るな!俺以外、何も!『空』も何もかも!!」

焦燥感をそのままに、俺は叫ぶ。――置いて行かれたくない、その一心だった。
暫くそのままで居ると、烏が宥める様に頭を撫でてきた。
「『空』を見るなっつーのは、無理だな。」
苦笑しながら言っているのが、気配で分かる。
「でもな、咢…。」
烏はそう前置きをして、俺にこう言った。

「―――俺は、お前を置いて行く気はねえよ。」

それを聞いた瞬間、俺は烏に軽く口付けた。
「咢…?」
何時もとは違う口付けに、烏は首を傾げる。
「連れてってくれんだろ?」
俺がそう言うと…一瞬、首を傾げた烏だったが、直ぐに意味が分かったのか、破顔した。
「おう、行こうぜ?」
差し伸べられた烏の手を取り、共に、『空』へと翔け出した。

――烏と一緒なら、何処までも翔けていけると信じて。

End.