アクシデント



あ゛…。

「え〜っと…。」
「……………」
戸惑った様子で固まっている烏と、無言で同じく固まっている俺。
その烏の格好は――下着姿。
偶々…用があって、何時もの様に烏の部屋に来てみたら、着替え真っ最中…思わず固まった。

「咢…ちょっと、出ててくれるか?」
その一言で、我に返った俺は頷いて、烏の部屋を出た。
閉まった扉に身を預けて、思わず溜息を吐いた。
「はぁ…。」
見慣れている筈の烏の肌に、何で動揺したのかさえも、分からない。
「…あんな顔、するからだ…。」

――あんな、パニくった…女の顔…。

そうこうしている内に、着替え終わった烏が、部屋から顔を出した。
「…入って良いぞ。」
烏にそう言われて、俺は烏の部屋に入った。
「「…………………」」
部屋に入っても、どことなく…気まずい雰囲気が流れる。
「…カラス。」
流石に…『見た』事は、不味かったかと思い…俺は意を決して、口を開いた。

「…その…」
「……ワザとじゃ、ねぇんだろ?」

俺の言葉を遮る様に、口を開く烏。
「――…あ、ああ。」
意外な烏の言葉に、俺は、慌てて頷いた。
「…それなら、良し。」
軽く息を吐いて、烏は呟いて、俺の背中に凭れてきた。
「――…怒ってないのか?」
多少なりとは、殴られる事を覚悟していた俺にとって、烏の行動は意外だった。
「ん?『怒ってるか?』って言われたら、怒ってる。」
烏のその一言に、『やっぱり…』と思う。
「…じゃあ、何――」
「だけどな…お前は、ワザとやったわけじゃ無いだろ?」
背後でも分かる位に、烏は呆れた様に、笑いながら言う。

「ついうっかりに、怒る程…俺の心は、狭くねえからな。」

烏の言葉を聞いて、殴られると身構えていた、肩の力が抜けた。
「でも…ホントに、悪かった…。」
「そう思うんだったら、俺様の背凭れになれ。」
謝る俺に、ケタケタと笑いながら宣言する烏。
背中から伝わる、烏の温もりと重さに…殴られなかった事に心から安堵する俺だった。

「――ヘッドロックしなかっただけ、マシだと思え。」

烏が小声で呟いたのを聞いた、俺は…『謝っといてよかった…』と、思ったのは言うまでもない…。
(――カラスのバカ力でんな事されたら、確実に死ぬ!!)

End.