心地よさ
眠い…。
「…………」
眠っていると、誰かが近付く気配がする。
「…れ?寝てんのか?」
微かに声が聞こえるが…誰だかは分からない。
どう言う訳か…其奴は、俺の隣に腰掛ける。――…向こうに行って欲しい。
其奴はそのまま、俺の髪を撫でる――あぁ…邪魔な筈なのに…何でこんなに、心地が良い?
心地の良い感覚に、俺は意識を手放した。
「…お。起きたか?」
――…目を開けてみたら、何故か目の前には烏の顔。
「……何やってんだ、ファッキンガラス。」
俺は目をパチクリと瞬かせながら、烏を見る。
「何って、膝枕?」
「……………………」
烏の答えに、思わず天を仰ぐ。――…烏の膝に、横になったまま。
そう。俺は今、烏に膝枕されている。
「何でまた…。」
「…綺麗だったから。」
俺は呆れた様に言うと、烏はそう答え…はい?
「――何っつた、今。」
何か途轍もない一言が、聞こえた気が…俺は、烏に聞き返した。
「〜〜…だから、『綺麗だったから』っつってんだろ!!」
顔を真っ赤にしながら、叫ぶ様に言う烏。
――俺の何処が?綺麗というなら、寧ろ…。
そんな事を思っていると…烏は急に踵を返した。
「オイ…何処行くんだ?」
「――…家に帰るに、決まってんだろ!この子鮫!!」
最後にムカツク一言を残して、烏はあの家へと帰っていった。
「…『綺麗』ねぇ…。」
烏の一言を思い出して、一人呟く。そんな事を言う奴は、今までに居なかった。
俺が『綺麗』などと、戯れ言を言う奴は――。
「…テメェの方が――。」
――後に続く言葉は、風が攫っていった。
End.
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