生まれてくる情は、
この烏の辞書に、『警戒心』と言う文字は…無いのだろうか?
先程から背に凭れている烏は、静かに眠っている。
背に掛かる重さが邪魔で、「起きろ!」と言い掛けたが――止めた。
眠っている烏は、何とも幸せそうな顔をして眠っていたから。
「いい加減、起きやがれ…。」
諦めた様に背に掛かる温もりの主に、そう呼び掛けるが…起きる気配は、皆無…。
この烏がくっつく事は、別段構わない。問題は――…。
『保つのか、俺の理性…?』
無防備な烏を見る度に、理性はキレそうになる。
いっその事、片割れに交替しようかと思ったが…それこそ、不味い事になるのは、分かりきった事。
間違いなく、烏にベッタリなアイツは…自分から――事を起こしかねない。
それを思うと、思わず溜息を吐いた。
「まぁ…良いか…。」
普段、自分が出ている時間は…然程ない。
こうして烏に触れる事なんぞ、滅多にないのが、現状だ。
あったとしても…頭の中で、片割れが『替わってよ!』と煩い。
「…少しは警戒しとけ、ファッキンガラス。」
そう呟いて、烏を起こすのを諦めて、この僅かな一時を愉しむ事にした。
End.
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