082:大胆
何時でもどんな時でも、貴方と大胆にいきましょう!
『トッキー!』
「おわっ?!」
呼ばれたと思ったら背中に『ドン!』と衝撃が走った。
何だ?と思って振り向いてみたら、武者丸が背中に飛び付いていた。
「へへっ!不意打ち成功や!」
斗機丸の背中にへばり付いたまま、武者丸は嬉しそうに言う。
「あのなぁ…一体どうしたんだ?」
斗機丸はそんな武者丸に呆れたが…一応、用件だけは聞く事にした。
「ん〜とな…ちょっと、こうしてみたかっただけや。」
武者丸は、暫く考える素振りをみせながらも…答えにならない答えを言った。
「……答えになってないぞ、武者丸……。」
斗機丸は空笑いしながらも、何とか答える事が出来た。
「でも…何か、急にくっつきたくなったんやもん…。」
武者丸はしょんぼりしながら、そう答える。
斗機丸は、そんな武者丸の様子を見て、何か引っかかった。
普段彼は、こんなしおらしい所は、余り他人には見せないし…第一、抱き付く事もさほどしない。
そんな事を考え込んでいた所為か…斗機丸は、武者丸から漂う甘い匂いに気が付いた。
「ん…?この匂い。武者丸、お前か?」
武者丸をこっちに向け、斗機丸は匂いを嗅いでみた。
「トッキー…くすぐったいやん…。」
どうやら…斗機丸が匂いを嗅ぐたびに、息が当たるのか…頬をほんのり赤く染めながら、擽ったそうに身を捩った。
「あ…!武者丸、お前酒を飲んだのか?!」
武者丸の様子に、思い当たった斗機丸は、頭を抱えながら叫んだ。
「飲んだのは飲んだけど、甘酒やで〜?」
そんな斗機丸を余所に、武者丸は頬を赤く染めたままで話す。
そう話す武者丸を見て、斗機丸は溜息を吐いた。
「まったく…。」
そう言って斗機丸は、武者丸を抱き上げて歩き出した。
「わぁ?!トッキー?」
武者丸はいきなり抱き上げられ、咄嗟に斗機丸にしがみ付いた。
「休憩だ、部屋に行くぞ。」
自身にしがみ付いた武者丸を見て、斗機丸は笑いながらそう言った。
武者丸は嬉しそうな顔でしがみ付いたまま、斗機丸の部屋へと向かった。
「ん〜…気持ちええ…。」
「はい、はい。」
部屋に入って直ぐに斗機丸は、部屋にある縁側に座り…自分の膝に武者丸を寝かした。
甘えた様に擦り寄ってくる武者丸に…斗機丸は、そんな武者丸の頭を飽きる事なく撫でていた
「なぁ…トッキー…?」
撫でられたままの体勢で武者丸は、眠たそうな声で斗機丸に声を掛けた。
「ん、何だ?」
眠たげな声を聞いて斗機丸は、頭を撫でる手を休め…武者丸の声に応じた。
「何か、今日…優しいなぁ…。」
眠たげな声で笑いながら武者丸は、斗機丸にそう言う。
「あのなぁ…俺は、何時でも優しいと思うが?」
言われた言葉に斗機丸は、苦笑を漏らしながらそう答えた。
「う〜…そうなんやけどな…。」
眠気が限界に来ているのか…武者丸は目を擦り、歯切れ悪くそう言う。
「?」
その真意が解らずに、斗機丸は顎に手を当てながら首を傾げた。
「やって…今日は、抱き抱えてくれたりして、大胆やったもん…。」
「―――――!!?」
その一言を聞いて、斗機丸は硬直し…武者丸は、眠りに落ちた。
武者丸の静かな寝息が聞こえた事で、我に返った斗機丸は…照れ臭さから頭を掻いた。
考え直してみれば、今日の自分は…武者丸の言う様に、確かに大胆だった。
廊下で抱き上げるなんて、人目に付かなかったとは言えないし…。
そう思い斗機丸は、午睡している武者丸を見て微笑んだ。
「大胆だったのは、お前もだぞ?」
斗機丸は笑いながらそう言って、武者丸の頭をまた撫で始めた。
太陽が描く青空は、この手には届かぬ程、遠いけど…貴方と居る時の暖かさは、さほど遠くはない。
時には大胆にいきましょう?愛しき人を振り向かせる為に。
光が射す如く、全ては、楽しんでいきましょう?
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