248:薔薇の花束
君の好きな花は?望むだけ、君にあげるよ。
「何か、こっち来んのも久し振りやなぁ〜…」
天馬の国での定位置――ススムのたこ焼き屋――に居る、武者丸はのほほんと言う。
「まぁ…そうだな。」
同じ様に――武者丸の隣が定位置になっている斗機丸も、のんびりと言う。
「まぁ…誰かさんのお陰で、ワイ、動けへんかったしなぁ…?」
武者丸は、冷ややかにジト目でそう言いながら、斗機丸を見た。
「う゛っ…それは、そうだが…。」
冷ややかに見られ…斗機丸は言葉を詰まらせた。
「やって…イヤや言うてるのに、がっつくんやもん…。」
武者丸は…頬を膨らませながら拗ねた顔で、そう言う。
「なっ…!それは、お前が…!!」
その発言に斗機丸は――『あんなに誘う様に、見るからだろう!』と言いたかったが…
それを、武者丸は、冷ややかな目線で制した。
余りにも冷ややかに見られ…斗機丸は漸く『ここ数日、ヤリすぎた…』とやっと気付いた…。
「―――暫く、禁欲や!トッキー!!」
たこ焼きを食べながら武者丸は、地獄の発言――斗機丸にとっては――を言い放った。
「!!―――――――――ちょ、ウソだろ?!」
その発言を聞いて、斗機丸は一瞬固まってしまい…悲痛な顔でそう言った。
「いーや、もう決めたからな!!」
武者丸は斗機丸の言葉に、プイッと顔を背けてしまった。
そんな喧嘩を――共通の友人であるススムとシンヤは、お茶を飲み――些か苦笑しながら聞いていた。
数時間後―――――――――――。
「ねぇ、武ちゃ丸。」
時間が遅い事もあって…シンヤと斗機丸が東京の自宅に――斗機丸はシンヤに引きずられて――帰った後、
ススムは、武者丸に、声を掛けた。
「なんや、シュシュム?」
武者丸は何時も通りに、ススムに返した。
「トッキーの事、良かったの?」
ススムは苦笑しながら、そんな武者丸に、尋ねた。
「――ええんや!もう決めたんやから!」
ムッとした声で、武者丸は、そう言い返した。
ススムは、そんな武者丸を見て…溜息を吐きながらも…『無理しちゃって』と心の中ではそう思った。
一方…東京では――――――――。
「おい、トッキー…何時まで、凹んでんだよ…。」
自宅に着く前――正確に言えば、新幹線に乗る前――から、鬱状態の斗機丸にシンヤは声を掛けた。
「………………」
『ズーン…』と効果音が付く程…斗機丸は無言のまま、シンヤの声を聞いていた。
「はぁ…ダメだこりゃ…。」
斗機丸の余りの落ち込み様に、シンヤはお手上げの状態に陥った。
「あ、そうだ…おい、トッキー!」
お手上げの状態に陥っていたシンヤだが…ある事を思い付き、斗機丸の肩を揺さ振った。
「何だ?シンヤ…」
凄まじく凹んだ表情で、斗機丸は漸く顔を上げた。
「良いアイディア、思い付いたんだけどよ…。」
そう言ってシンヤは、斗機丸の耳元でその『アイディア』を耳打ちした。
それを聞いた斗機丸は――顔を輝かせ嬉しそうに、算段を立て始めた。
それを見て漸く…シンヤは安堵の溜息を吐いた。
そして、2時間程経過した頃――――――。
「ねぇ、トッキーの様子…どうだった?」
『完全に凹んでたぞ…鬱陶しい位に、そっちは?』
「こっちは、凹んではいなかったけど…無理はしてたみたい…。」
『そうか…ちょっと、トッキーに提案したんだけどな――――――――――。』
「それだったら、大丈夫だと思うよ。」
『そうである事を、願いたいな…。』
「まぁ…お互いに不器用だし、仕方無いと思うよ?」
『そりゃ、確かに。』
と――ススムとシンヤが電話で、武者丸と斗機丸の様子をお互いに話していたのは…余談である。
そして、1週間程経過した頃―――――――。
「よ、ススム。」
シンヤが斗機丸と、一緒に尋ねてきた。
「あ。いらっしゃい、シンヤ。トッキーも。」
声に気付いたススムは、何時もの様に振り向いた。
「済まないが…武者丸は?」
武者丸の姿を探していたらしく…着いた時からソワソワしていた斗機丸は、ススムに尋ねた。
「あ…武ちゃ丸だったら、家の方に居るよ?」
そんな斗機丸を見て――ススムはクスクスと笑いながら、そう答えた。
「い、家の方に?」
ススムの言葉を聞いて、斗機丸は首を傾げた。
「武ちゃ丸、何だか拗ねちゃったみたいで…。」
『仕方が無いんだから』と苦笑しながら、ススムはそう答えた。
「あ、それじゃあ…家の方に、行ってみるよ。」
そう言って斗機丸は――ススムから家の場所を聞いて、お礼を言った後――ダッシュで家に向かった。
「あ〜あ…嬉しそうに、行っちゃったね。」
「本当に、ベタ惚れだよな…トッキーの奴。」
2人は顔を見合わせながら、微笑ましく溜息を吐いた。
一方、ススムの家に向かった斗機丸は、行き先の途中にある小さな花屋にいた。
『いらっしゃいませー。』
店に入った途端に、花屋独特の女性の声が聞こえた。
「はぁ…どうしようか…。」
色々と花を見て回るが…ピンと来る花が見つからない。
「あ…コレが良いな…。」
そう言って斗機丸が見付けたのは、淡いピンクの薔薇であった。
値段も手頃であったし、何よりも…武者丸に似合いそうな色だった。
「済みません…コレ下さい!」
斗機丸はそう言って、店の人に花をラッピングして貰い…お金を払って店を出た。
「さて…御機嫌を取りに行きますか。」
斗機丸は薔薇の花束を抱えて、走り出した。
『ピンポーン…』
少し古い呼び鈴の音が、自分以外誰も居ない家に響いた。
「今出るでぇ〜。」
聞こえた呼び鈴の音に、武者丸は立ち上がり…玄関へと向かい扉を開けた。
『ガチャ…』
「あ、トッキー…。」
扉を開けた武者丸は、斗機丸の姿を見て…声のトーンを僅かに落とした。
「そう、不機嫌そうにしないでくれ…。」
声のトーンを落とした武者丸を見て…斗機丸は花束を後ろに隠したまま、苦笑した。
「?なぁ…後ろに、何隠しとるん?」
武者丸は斗機丸が隠している花束に気が付いたのか…首を傾げて尋ねた。
「あぁ、コレか?」
武者丸の言葉を聞いて、斗機丸は嬉しそうに微笑んだ。
そして斗機丸は――薔薇の花束を、武者丸に差し出した。
「おわ?!トッキー!?」
『バサッ』と目の前に花束が差し出され…武者丸はビックリしながらも、差し出された花束を受け取った。
「お詫びで、持ってきたんだが…気に入らなかったか?」
斗機丸は苦笑しながら、ビックリしたままの武者丸にそう言う。
その言葉を聞いて、武者丸は嬉しくなって、満面の笑みを浮かべた。
「いんや…嬉しいで、トッキー!!」
武者丸はそう言って、斗機丸に抱き付いた。
そう…シンヤが提案したアイディアとは…『花束でも、プレゼントしてみたらどうだ?』と言う事だった。
斗機丸はこのアイディアを提案してくれたシンヤに心から感謝した。
「なぁ、トッキー。」
武者丸は抱き付いたまま、斗機丸に声を掛けた。
「ん、何だ?」
武者丸を抱き締めたまま、斗機丸はそう尋ねた。
「今度からは…ちゃんと、セーブしてな…?」
武者丸は上目遣いで、斗機丸にそう言った。
それを聞いた斗機丸は、頭を掻き苦笑しながら…『了解…。』と答えた。
それから暫くの間、2人は…1週間ぶりに甘い時間を過ごしたそうな。
オマケ。
「あ、言うの忘れとったけど…暫くは、未だせんからな。」
「――――ちょ、本気か?!」
「本気やで、未だ身体痛いんやから。」
「…そうか、解ったよ。」
「キスやったら、ええけど」
「はい、はい…仰せのままに…。」
と未だ暫くは、禁欲生活は続く事になったらしい。
君の好きな花は、何時でも儚き存在。
だけど…君が望むだけ、俺は花を捧げ続ける。
本当の愛を知るために、君と一緒にいたいから。
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