288:ヤキモチレベル
ワガママにも、程があるぞ!
「トッキーぃ…離してくれや…。」
「嫌だ。」
はぁ…と溜息を吐きながら武者丸は、さっきから自分を背後から抱き締めている、斗機丸の方を見た。
どう言う訳か…先程から自分を『ぎゅむ〜』と効果音が付きそうな程、抱き締めているのだ。
「ホンマ、離してや〜…。」
いい加減に耐えきれなくなった、武者丸はそう言いながら、腕の中から抜け出そうとするが…
それを見計らった様に、斗機丸は、抱き締める腕の力を強めた。
「ぐぇっ!トッキー!!!」
「…ダメだ。」
苦しさに藻掻く武者丸を余所に、斗機丸はダダをこねる子供の様に言う。
「ホンマに、何なんや?!!さっきから、そればっかしやん!」
余りにも不可解な斗機丸に、武者丸は苦しさに耐えかねた事もあり…大声で怒鳴った。
「……………」
武者丸の怒鳴り声に――斗機丸は沈黙を守りながら、拗ねた表情を浮かべた。
そして…武者丸も黙ってしまい――2人の間には、気まずい沈黙が生まれてしまった…。
「――――――…したんだ…」
数分間の沈黙を破ったのは、斗機丸の方だった。
「えっ…今、何言うた?」
小声だった為、武者丸は聞こえず…斗機丸に聞き返した。
「……嫉妬したんだ……。」
斗機丸は武者丸を抱き締めたまま…バツの悪そうな表情でそう言った。
「…嫉妬したって…?」
武者丸は抱き締められたまま、斗機丸からその言葉を聞いて――目を見開いた。
「――――…あぁ。」
そう言いながら斗機丸は、武者丸の肩に頭を埋めた。
「――――――でも、何に嫉妬したんや…?」
武者丸は首を傾げながら、肩に頭を埋めたままの斗機丸に尋ねた。
「〜っ……―――に…。」
どうやら、言いたくないらしく…斗機丸は、本当に小声でそう言った。
「なぁ、もっかい言ってくれへんか?」
斗機丸の声が小さすぎて、聞き取れなかったらしく…武者丸は聞き返した。
「だから!!ぬいぐるみに、嫉妬したんだ!!」
「はぃー―――――――――?!!!」
斗機丸は自棄になって顔を赤くしながら怒鳴って、武者丸は余りのくだらなさに大声を上げた。
斗機丸が言ったぬいぐるみとは…ついこの間、ススムとシンヤから貰った物だ。
貰ったぬいぐるみ――武者丸はうさぎで、斗機丸はオオカミ――は2人のそれぞれのキャラに、
あったぬいぐるみだったのだが…どうやら――武者丸がここ最近、ぬいぐるみばっかりに構ったので、
柄にもなく…ヤキモチを焼いてしまったらしい…。
「…トッキー…」
武者丸は、斗機丸の名を呼びながら、呆れて溜息を吐いた。
「…『下らない』とでも、言いたいんだろう…?」
自己嫌悪の状態に陥ってしまった斗機丸が、僅かに腕の力を緩めながら…武者丸に言った。
武者丸は腕の力が緩んだのを見計らって、斗機丸の方へと身体を向けた。
「うんにゃ、嬉しかったで。」
『チュッ!』
「!!!」
そう言って武者丸は、斗機丸の頬にキスをした。
何だかんだ言っても――斗機丸が嫉妬してくれたのが、嬉しかったようだ。
キスをした後…武者丸はやっぱり恥ずかしかったらしく…斗機丸に背中を向けてしまった。
斗機丸は、暫く呆然とした後…片腕で、武者丸を抱き締めたまま、自分の頬に触ってみた。
そこには、まだ微かに温もりが残っていた。
そう思って武者丸の方へと顔を向けると――赤く染まった項が、目に入った。
それを見て斗機丸は嬉しくなって、武者丸を思いっ切り抱き締めた。
「うわ!トッキー?!」
いきなり抱き締められた武者丸は、驚いて上擦った声を上げた。
「暫くは、このままで良いよな?」
斗機丸は嬉しそうな声で、そう言いながら…武者丸を更に抱き締めた。
武者丸は抵抗するのを諦めたのか…身体から力を抜いて、斗機丸に身を任せた。
そして…2人は――穏やかな甘い時間を過ごした。
そんな2人の様子を、2つのぬいぐるみが、静かに見守っていた。
ワガママには程があるけどさ、それが悪い事での、ヤキモチじゃなければいい。
俺は、頭が固い人は嫌いだけど…お前は大好きだよ。
カワイイぬいぐるみには、悪いけど…な?
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